今年、開館20周年を迎えた東京・六本木の森美術館。多くの人びとが同時代の文化を体験し、検証するべく現代アートの美術館として活動を続け、これまでに59の企画展、および72の小企画展を開くと、延べ1800万人を超える入場者を記録してきた。またラーニング・プログラムを1828件実施していて、日本と東アジアを中心とするアーティストの写真、映像、インスタレーションなど計455点の作品もコレクションしている。巨大都市東京を見渡す森タワーの53階から、いつも日本の現代アートシーンを牽引し続ける一大文化拠点と呼んでも過言ではない。
現在、森美術館で開催中の『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』とは、学校で習う8つの教科を現代アートの入口とし、54組のアーティストによる約150点の作品を展示するユニークな展覧会だ。このうち「算数」では、フォボナッチ級数をネオン管で表したマリオ・メルツをはじめ、数理模型を建築物のように撮影した杉本博司の作品を展示。また「哲学」では、仏教的な死生観をデジタルカウンターの数字で示した宮島達男や、死者にレクチャーするパフォーマンスを行うアラヤー・ラートチャムルンスックなどの表現を紹介している。米田知子が「国語」、また奈良美智の作品が「哲学」にて展示されるなど、各教科とアーティストの意外な接点も面白い。
現代アートの中で頻繁に取り上げられるテーマでもある「社会」が充実している。どんな人間も社会という彫刻を作る芸術家だといったヨーゼフ・ボイスにはじまり、美術の歴史や価値に新たな視点を提示したアイ・ウェイウェイや森村泰昌へと作品が続く。そしてベトナム戦争中の爆撃によって作られた爆弾クレーターを写したヴァンディー・ラッタナや、シリアで過去に公開処刑が行われた広場を捉えたハラーイル・サルキシアンなど、戦争や暴力が残したものに向き合うアーティストが紹介されている。このほか、人の労働のあり方を問い直す青山悟の工業用ミシンを用いた刺繍や、愛知県の製陶産業と世界経済の関係を人形浄瑠璃にて語る田村友一郎の映像も見逃せない。
出品作品のうち半数以上は森美術館のコレクションにて構成。1960年代のコンセプチュアル・アートの主要作家のジョセフ・コスースの『1つと3つのシャベル』といった現代美術史で参照すべき重要な作品や、ヤコブ・キルケゴール、パーク・マッカーサー、宮永愛子による本展のための新作、さらに「総合」にて一際目立つ韓国のヤン・へギュの大掛かりなインスタレーションも見どころだ。現代アートを美術や図画工作といった教科の枠組みから解き放ち、作品を通して見たことのない、知らなかった世界に出会うことのできる『世界の教室』にて、現代社会のいまと行方を考えたい。
『森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』
開催期間:2023年4月19日(水)〜9月24日(日)
開催場所:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜22時※会期中の火曜日は17時まで。ただし5月2日(火)、8月15日(火)は22時まで。入館は閉館の30分前まで。
会期中無休
入場料:一般¥2,000 ※平日当日窓口料金
www.mori.art.museum/jp/