1812年、高知城下に髪結いの子として生まれたといわれる絵師・金蔵。幼い頃から画才を発揮すると、18歳の時に江戸へのぼって、駿河台狩野派系の土佐藩御用絵師のもとで3年間の修行を積む。そして帰郷して土佐藩家老・桐間家の御用絵師として出世を果たすも、33歳の時に城下から追放されてしまう。贋作事件に巻き込まれたとの言い伝えもあるが、定かではない。しかしそれからは凧絵や幟、絵馬といった庶民の注文に応じて絵を描く町絵師として活躍し、「絵師の金蔵さん」、つまり絵金として地元の人々に親しまれてきた。いまでも芝居絵屏風や絵馬提灯といった作品が多く残っているが、中年以降、いつどこで仕事をしていたのか確かなことは分かっていない。
その絵金の高知県外としては半世紀ぶりの大規模な展覧会が、大阪のあべのハルカス美術館にて開かれている。会場では歌舞伎の一場面を劇的な構図とビビッドな色彩によって描いた芝居絵屏風を中心に、2018年に発見された『釡淵双級巴(かまがふちふたつどもえ)』と呼ばれる絵馬提灯、また芝居絵の下絵と考えられる白描画など100点の作品を展示し、絵金の極めてユニークな個性と魅力について紹介している。このうち約200点現存することが判明している芝居絵屏風のほとんどは神社や自治会、公民館などに分蔵されているため、そもそも作品をまとめて公開される機会は少ない。まさにかつてない一期一会の絵金展といえる。
高知の夏祭りをイメージした展示にテンションが高まる。絵金の芝居絵屏風を夏祭りに飾る風習がいつはじまったか定かではないものの、江戸時代末期には流行したと考えられていて、現在でも約10箇所の神社にて昔ながらに屏風を絵馬台に飾る光景を見ることができる。そして会場では高知市朝倉の朝倉神社の山門型の絵馬台をはじめ、香美市土佐山田町の八王子宮に伝わる「手長足長絵馬台」を設置し、絵金の芝居絵屏風を高らかに掲げている。また夏祭りでは夜の闇の中、芝居絵屏風を提灯や蝋燭の灯りで浮かび上がらせているが、展示室でも炎のゆらめく蝋燭をイメージした照明によって追体験できるように工夫されている。
極彩色による芝居のドラマティックな場面を描いた芝居絵屏風は、幕末の土佐の庶民に熱狂的に受け入れられると、絵金は弟子に手伝わせながら大量の注文にこたえ、没後も孫弟子や影響を受けた絵師などが昭和初期まで制作を続けていった。絵金の作品をつぶさに見ていくと、芝居絵屏風の激烈な表現だけでなく、四季の風物をユーモラスに描いた『土佐年中風俗絵巻』などもあり、作品によって作風を変える器用な絵師ということも分かる。なお今回の展覧会を終えると、夏にはいよいよ絵金ゆかりの高知県香南市赤岡町にて「土佐赤岡絵金祭り」も開催される。会場出口に用意された「EKIN GUIDE BOOK」を手にして、大阪から高知へと絵金を追っかけたい。
恐ろしいほど美しい『幕末土佐の天才絵師 絵金』
開催期間:2023年4月22日(土)〜6月18日(日) ※会期中、展示替えあり【前期:4月22日(土)〜5月21日(日)、後期:5月23日(火)〜6月18日(日)】
開催場所:あべのハルカス美術館
大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階
TEL:06-4399-9050
開館時間:10時〜20時(火〜金)、10時〜18時(月、土、日、祝) ※入館は閉館30分前まで
休館日:5月22日(月)
入場料:一般¥1,600
www.ktv.jp/event/ekin/
www.aham.jp