新たなアイデアを生む大事な場。建築家・クマタイチが過ごすセカンドハウス

  • 写真:藤井浩司(TOREAL)
  • 編集&文:渡邊卓郎
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東京を離れ、仕事をしてサウナに入る。建築家・クマタイチさんにとって、セカンドハウスは新しい発想を生み出す、大切な場所だ。そんなクマさんのセカンドハウスでの暮らしを、現在発売中のPen最新号『理想の暮らしは、ここにある』より抜粋して紹介する。

Pen最新号『理想の暮らしは、ここにある』。都心にこだわらず、好きな場所に住み、自由に働く……。オフィスから離れて仕事をこなし、家族との時間を優先する。そんな“当たり前”の生活を実践する人が、「新しい働き方」をトリガーに、さらに増えている。「理想の暮らし」とはいったいどんなものなのか? 第2特集は『マティスの部屋』。近代美術の巨匠、アンリ・マティスが暮らしたユニークな部屋から、彼の絵画世界の魅力を考える。

『理想の暮らしは、ここにある』
Pen 2023年6月号 ¥880(税込)
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セカンドハウス 山梨県・清里

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クマタイチ●建築家。1985年、東京都生まれ。TAILAND主宰。建築におけるソフトとハードの融合をコンセプトに東京・神楽坂で「SHARE」というシェアハウス、シェアオフィス、シェアキッチンなどの設計から運営までを行う。「SHAREyamabukicho」には自らが運営するコンビニ「SHOPPE」が入る。

八ヶ岳の南山麓に位置する清里高原。都心からのアクセスのよさと、景観の美しさで1980年代にはブームになったリゾート。この土地に建築家・クマタイチさん家族のセカンドハウスがある。

「東京からクルマで2時間半ほどという距離感がちょうどいいんです。移動を伴って場所を変えることは、僕にとってとても重要なのですが、ここより距離があるとすこし遠いと感じてしまいます」

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存在感のある木造屋根は雪下ろしを不要にする60°勾配になっている。山小屋のような佇まいの三角形の2棟の間には段差のついたテラスがあり、このテラスで過ごす時間も楽しそうだ。

標高1200mという高地に位置する冷涼な気候の清里は、いまでこそ美しい牧場の景観が広がっているが100年ほど前は荒れ果てた高地で、人が避暑に訪れる土地ではなかったという。アメリカ人教育者のポール・ラッシュによって開拓され酪農が盛んになり、現在の清里らしい牧場の景観が出来上がったのだ。

「空気も水もきれいで環境は素晴らしいですね。八ヶ岳など周囲の景色も美しいんです。そして、人が絶妙な距離感で暮らしているので、とても居心地がいいんです。子どもの頃からこの場所に家があるのですが、10年ほど前に現在の姿になりました」

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木造屋根の内部に鉄骨は入っておらず、中は空洞。接合されている木の板自体が構造になっている。キッチンスペースとリビングに仕切りはなく、自由に行き来できる。

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茶室のようなサウナでは、ロウリュウで人をもてなす

「サンカク」と名付けられた大小ふたつの正三角形の建物。設計はクマさんの母の篠原聡子さんが主宰する空間研究所。篠原さんが中心ではあるが、建築家一家全員でアイデアを出し合ってアップデートしているそうだ。クマさんがこのセカンドハウスで設計したのが、屋外に建てられたサウナ小屋。

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左:片流れになっている屋根も三角形。屋根と壁は透明なポリカーボネイト製のため、サウナ室内にいても周囲の自然の景色を楽しむことができる。雪の季節には全方位が真っ白な世界に包まれるそうだ。右:ゲストは階段のついた右正面の小さな扉から出入りできるため、外に出てシャワーを浴びるための動線がスムーズになっている。

「2年前までニューヨークで暮らしていたんですけど、ある時、マンハッタンを離れてアップステートを巡っている時に、こんな場所でサウナに入ったら気持ちいいだろうなと思ったんです。雰囲気が清里に似ていたこともあって、帰国したらセカンドハウスにサウナをつくろうと思いつきました。サウナは自然に近いところで入るのがいちばん気持ちいいですからね」

「サンカクサウナ」という名のサウナ小屋。こちらは平面と屋根が三角形。屋根と壁はポリカーボネイト製で外と中の様子があいまいに溶け合う。扉はふたつ備えられていて、ひとつはサウナストーンに水をかけロウリュウをする、茶席でいうところの亭主が出入りする扉。ゲストは茶室のにじり口のような扉を使って出入りする。

「まさに茶室をイメージしました。お客さんをロウリュウでおもてなしをするんです。この家では人と一緒に過ごす時間を大切にしています。自然の中にいると都会とはまるで異なる時間が流れるので、1日ゆっくりと一緒に過ごせるのです。このセカンドハウス自体も茶室のように捉えています」

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セカンドハウスは人をもてなすために使うこともあれば、ひとりで使うこともある。東京を離れ、仕事をしてサウナに入る。

「この場所に来るという行為とセカンドハウスで過ごす時間が、思考や発想にすごく影響しますね。強制的に環境を変えて、視点と思考を変えないと、デザインの決定などができない気がするんです」

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左:室内に造作されたボックス状の部屋の上部がゲストもホストもともに利用する寝室スペースになっている。一体型のキッチンはつくる人と食べる人とを分けず、料理と食事の時間を共有することができる。右:ボックス状の部屋内に設けられたトイレ&バスルーム。大きなステンレス鍋をはめ込んで洗面器とする発想が楽しい。 下:ゲスト棟にあるテーブルは、クマさんが大学生時代にこの家に滞在しながら友人と一緒に制作した作品。「次は母屋の下の空間をワインセラーにしようと画策しています」とクマさん。

自然に囲まれているとはいえ、自然からインスピレーションを受けて創作するというわけではなく、クマさんにとっては環境を変化させることが大切だという。

「直接的なインスピレーションを得るわけではありませんが、都会を起点に考えた場合、視点と思考を強制的に変えるためには、自然がある方向に行くというのが最適なのでしょうね。ここに来ることで仕事のペースを変えることができるというだけでなく、誰と行くかによってその体験をデザインするのを楽しんでいます」

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セカンドハウス、二拠点、移住、新しい働き方
『理想の暮らしは、ここにある』

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