アナろぐフィールドワーク#14
世界のトップDJが愛用する、浦和発のレコードバッグKLIPTED。その使いやすさは、ひとりの職人のライフスタイルから生まれた

  • 文:MOODMAN
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MOODMANと申します。今回は、話題のアナろぐアイテム、KLIPTEDのレコードバッグについて、浦和の工房にお邪魔して、取材をしてまいりました。

DJ現場での使用を重視し、細部まで考え抜かれて設計されたこのレコードバッグ。ツアーなど移動が多いヨーロッパのトップDJが次々と使用し始めたことから、SNSで自然発生的に評判が高まり、いまや、オーダーを開始した途端にソールドアウトという人気アイテムです。

私自身、愛用していて実感するのは、使い勝手の良さです。たとえば、2、3時間のDJを想定すると、アナログレコードが最低限50枚。さらに音楽データの入ったSSDを一式。そのほか、ヘッドフォン、レコーダー、ケーブル、場合によっては着替えなど…。意外といろいろなものを持ち運ぶことになりますが、そのすべてをコンパクトに収納でき、現場での取り出しもスムーズ。しかもバックパックタイプなので移動のストレスが少ない…と、褒めまくってしまいましたが、アナログもデータもプレイするというハイブリッドなDJスタイルの方には特におすすめです。久しぶりに出会った、DJギアの嬉しい進化です。

インタビューは3回に分けて掲載させていただきます。第1回目はまず、なぜKLIPTEDのレコードバッグは使いやすいのか。その機能的な特徴について、職人である富田浩太郎さんご自身にお話を聞いてみました。

山登りのギアから発想した究極のレコードバッグ

MOODMAN:DJをするときは、データでプレイすることが多いんですが、ここにきてアナログオンリーでやる機会もまた増えていまして。今のライフスタイルにあった、いいレコードバッグがないかな、と探していたところ、インスタグラム経由でKLIPTEDを知り、その使い勝手の良さに感銘を受けまして、購入をさせていただいたっていう感じなんですけれど(笑)。
まずは、この記事を読まれている方に、このKLIPTEDのレコードバッグの特徴みたいなことから、お話を伺えたら、と思っています。

富田浩太郎(以下、富田):元々がですね、僕が山登りとキャンプが好きっていうのと、あとDJもしてるっていうのが背景にあります。レコードってご存知の通り、重いじゃないですか。重量物を背負う際に、山登りのザックのシステムがちょうどよかったんです。このストラップの形状だったりとか。このチェストを留めるところとか。山を登るためのカバンとレコードバッグを合体させたというところが特徴です。

 

MOODMAN:この発想は、これまでなかったですよね。

富田:そうですね、意外とやってる人がいなかったですね。背負うカタチのレコードバッグっていうのは今まであったんですけど、背負っているさまがかっこよくない(笑)。四角いじゃないですか。

MOODMAN:なんて言えばいいかな、Uber Eatsみたいになっちゃうんですよね。

富田:そうなんです。レコードが入ってるような見た目にしたくなかったっていうこともあります。レコード入ってるのこれ?みたいな感じでクラブに登場したかったっていう(笑)。それが最初のコンセプトです。

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身体にフィットすることで荷重を面で受ける

MOODMAN:容量的にはレコードが、30枚?

富田: 50枚入ります。もっというと、ジャケを抜いてスリーブのみの状態にして、底板をうまく使うと、2段積めるんすよ。そうすればマックスで90枚近くは入るんですけど。でもそうするとめちゃめちゃ重いですし、おすすめはしていません(笑)。

MOODMAN:今まで僕が使ってたレコードバッグだと50枚入れると結構重かったんですけれど、KLIPTEDはあんまり重さを感じないんですが、なぜなんでしょう。

富田:荷重がかかってるときに背負っている物が横に揺れると、力が左右に振られます。なので、一歩一歩、足で踏ん張らなきゃいけなくなるんです。そうすると筋肉を使うので疲れる原因になるんですが、ここにスタビライザーというものがついてまして。

MOODMAN:ここのショルダーベルトの部分ですね。スタビライザーなんですね。

富田:そうなんです。ここを締め込むと、物が左右に揺れないので、歩きやすいんです。あと、この肩のストラップの部分なんですが、本当だったら硬くするんです。でも、このストラップを硬くしてしまうと、荷重がここの肩の部分にのみかかってしまうんですよね。なので、ストラップを柔らかくすることで、上半身全体でホールドする。重量が分散されるので、歩きやすくなるんです。構造としてはストラップを柔らかくする代わりに、外側を硬くしています。外側が芯になってる感じですね。

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ショルダーベルトのスタビライザー。

MOODMAN:手間がかかりそうな構造ですね。

富田:はい。すごい手間がかかります。多分、普通はやらない作り方をしてしまってます(笑)

MOODMAN:ショルダーの部分だけでもそんなに精緻に計算されているんですね。この部分も全部手作りなんですか。

富田:そうです。全部、そうです。布を切るところから、縫うところから、さらには注文のメールの応対から何から夫婦二人体制でやっています(笑)。

MOODMAN:あらためて、背負ってみてもいいですか?

富田:はい。今、背負っていただいてわかると思いますが、肩から胸まで荷重がかかっているんです。なんていうか、脇腹、胸、肩でしょっている感じなので、荷重が分散し、歩きやすくなっていると思います。登山用のバックパックが元々そういう作りをしているんです。ショルダー部分にスタビライザーが入っていて、それをそのまま踏襲してるカタチになります。

MOODMAN:たしかに。横ずれがなく、面で重さを受けるので、軽く感じるのか。

富田:歩きやすいっていうのはあると思います。だから背負ったときに、一回、このスタビライザーを絞った方がいいんですよね。 

MOODMAN:ここですよね。ちゃんと絞ってなかったかもです。

富田:ここと、チェストストラップもそうなんです。

MOODMAN:あ、ここか。やってなかった(笑)。

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チェストストラップ。

富田:絞ると、もっといい感じになると思います。その辺りの説明動画みたいなものを、もっとちゃんと作った方が良いかもと思っています。

MOODMAN:絞るとさらにフィットするというか、やっぱり安定しますね。このスタビをギュッと締めると。

富田:三点締めみたいなものなんですよね。背負ったら、まずこの一番下のストラップで決めて。次に胸のところを締めて。最後に、スタビライザーをグッと絞める。そうするとバキッと決まる感じですよね(笑)。

MOODMAN:なるほど、スタビライザーを知らなかったので、僕はさらに決まるな(笑)。あと特徴的なのは、このバッグの表についてる、左右対称の2つの長いポケットですよね。これが意外と使い勝手が良いというか。ちょうどペットボトルが入るぐらいの大きさですよね。

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100以上のパーツを手作りで組み上げる

富田:僕もDJに行くときは、片側のポケットにレコードスタビライザーとヘッドホン入れて。もう片側には、上着とか着替え、あとはタオルなんかを入れちゃっています。

MOODMAN:そういうものが、入るところがなかったんですよね。僕がこれまで使ってたのは、箱型のレコードバッグだったのですが、小物が収納できる場所が少なかったんです。ちなみに、このバッグって、何個ぐらいのパーツでできるもんなんですか。すごい細かい作りだなと、あらためて思ったんですが。

富田:数えたことはないんですけど、この壁にかかってる型紙を全部使って一つのカバンができます。型紙によっては左右があるんで、この倍ぐらいは使っています。100近いんじゃないかと思います。

MOODMAN:めちゃめちゃ根気のいる作業ですね。

富田:そうですね。毎日が1人ロングセットですね(笑)。

MOODMAN:ひたすら作ってる感じですか(笑)。

富田:自分がDJしたくてレコードバッグ作り出したのに、もう家の外にまったく出れないという(笑)。量産することを考えてる設計じゃなかったんですよね。最初は自分用の1個だけ、至極のレコードバッグを作れればいいと思ってたので。あとは、友達の分ぐらいで。機能面を優先したので、なんていうんすかね、手間かけれるところをかけるだけかけちゃってるんですよね。なのでもう、本当。長時間労働も過ぎるなと。

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求められるのは、ライトでありタフであること

MOODMAN:今、アウトドアのギアって、どんどんコンパクト化してたり、ヘビーデューティになってたり、日々進化していますが、やっぱり気になりますか。

富田:気になりますし、自分でも実際に使ってますね。ブームで言うとウルトラライトの流れがあります。ULっていうんですけれど。このレコードバッグもどちらかというとULと言いますか、なるべく軽くしようっていう思想がまずありきで作られてるんですけれども。

ULの場合、素材がまず違うんですよね。このバッグで使っているコーデュラとか、硬くて重い素材は使わないし、もっとナイロンの薄いやつとかで作るんです。でも、ULのものって、軽さ追及なのでもろいんですよ。ハードにタフに扱えない。なので、このバッグでは、そうしたULの考え方と、90年代ぐらいの登山グッズのタフに使える部分を、ミックスさせています。自分の中でいいとこ取りをしていって、組み合わせて合体させたみたいな感じです。なのでもう、自分用なんですよね(笑)。

ライフスタイルから発想された設計

MOODMAN:自分の欲しいもの、と言う点で言うと、このレコードバッグが生まれた背景には、富田さんご自身のライフスタイルもあるのでしょうか。

富田:完全にそうです。まずうちから駅が遠いって言うことがありまして(笑)、レコードバッグをキャリアに積んで、ガラガラ引いて駅までいけない。できるなら、自転車で行きたい。あと作り始めたとき、会社の残業がすごくて、休日出勤とかもざらだったんですよ。なので、会社にレコード背負って行って、DJを夜やって、土日休日出勤とかあるのでね、そのままレコードを背負って会社に戻るとか。そういうライフサイクルだったので、レコードをガラガラと引いては行けないという(笑)。

MOODMAN:その気持ちは僕も完全にわかります(笑)。だから、レコードだとあからさまにわからないものの方がいいですよね。

富田:この人はレコードを持ってるって気づかれないカタチにする必要があったんですよ(笑)。あとは、よくレコードディグも行くんですが。浦和はディスクユニオンがあるんです。そこまで自転車で行って、そのユニオンの隣に公園があるんですよ。そこでちょっと何かご飯食べたりとかもするので、カバンにはゴザや、コーヒーを淹れるセット入れて、レコード入れて、自転車で行って帰ってこれるので(笑)。

MOODMAN:いいですね。アウトドアの趣味もライフスタイルの大きな一部ですよね? 

富田:そうです。山登りにも、このバッグで行きたかったんです。自分的にレコードバッグ使いがメインっていうよりは、もっと生活にあるもろもろのこと。旅行だったり、会社に行ったり、そういうこと全般を一つでカバーできるカバンということを想定して作っています。なので、荷物が行った先で増えることを想定してまして、ロールトップになっています。

MOODMAN:僕、このロールトップタイプのカバンを初めて使ったんですけど、すごい便利ですね。上から荷物を増やせるっていうのはすごい便利ですね。僕の場合は、湾岸に釣りに行くときにこのバッグを使っているんですが、着ていたアウターを脱いで、サクッと上から入れたりしています。

富田:荷物が増えても、ガンガン詰めて帰ってこれるっていう。あとは、カバンの底にループがついていまして、この下にマットとか、椅子とかつけられたりもします。

MOODMAN:僕は、釣竿の短いやつをつけたりしてます(笑)。

富田:インナーの特徴では、開いた手前に10インチや7インチを入れる収納があります。大体、僕は12インチをメインにDJしているんですが、10インチ盤を1〜2枚だけ持って行きたいっていうことがよくあって。DJしているとき、10インチが見つからない時ありませんか? 探しているうちに自分の時間が終わっちゃうんですよね(笑)。

MOODMAN:わかる(笑)。10インチはよく12インチの間に紛れ込んじゃいます。

富田:10インチをかけたいと思う時って、だいたい気合入ってる1曲じゃないすか。かけたい時にすぐに見つかるように、10インチ、7インチは別のポケットにしました。背中側にも収納があって、こっちにはPCなどが入ります。

MOODMAN:あとは、DJブースにこのバッグを置いて、開ければ、レコードボックスのような感じでそのままDJができるという点も良いですよね。色のバリエーションはどのくらいあるんでしたっけ?

富田:黒とチャコールグレー、コヨーテブラウン、カーキ、あとウッドランドですね。黒が圧倒的に人気です。黒ばっかり作ってますね(笑)。

MOODMAN:生産体制的には、オーダーを受けて作る、という感じですか。

富田:そうです。作業場が狭くて、そこにかけられる数しか作ることができないので、在庫を持つことが現時点ではできないんです。


(アナろぐフィールドワーク#15に続く)

 

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アナろぐフィールドワーク

MOODMAN

DJ・クリエーティブディレクター

1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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