フェラーリのプラグインハイブリッドモデル(PHEV)「SF90」は大きな転換点だった。初のPHEVモデルがいきなりフラッグシップでデビュー。将来のスーパーカー市場を予感させるインスピレーションに満ちていた。
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「なにが大きかったか」といえば新しい基準値をつくったこと。SF90はスーパーリッチ層にアピールするため1000馬力に見合った格の上げ方をしてきた。これまでのフェラーリを超える存在。SF90とはほとんど神話の世界のクルマだった。
その点からするとV6ハイブリッドの296GTBは、呆気にとられているファンに依然としてフェラーリらしさは不滅なことをプレゼンテーションする。SF90がヒップホップに対する社会認識を一変させたピューリッツァー賞アーティスト、ケンドリック・ラマーの新作だとすると、296GTBはスタイルを変えることなく、新作のたびにトレンドを生み出すドレイクって感じ。
近寄りがたいカリスマ性があって荘厳かつスーパーハイエンドなSF90よりも、好戦的でサーキットの匂いがぷんぷんするのね。SF90が4輪駆動で神がかった速さだとすれば、296GTBは後輪駆動で軽快な高級スーパースポーツ。選択するドライブモードによっては危険なタナトスの匂いだって忘れていない。
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V8エンジンを搭載したF8トリブートの後継とされるだけあって血脈は明らか。地を這うようなスタイリングのミドシップレイアウトにスーパーフラットなハンドリング性能。クイックな味付けで軽快にノーズが入るコーナリングとともに、しなやかな車重移動をこなすことでフレームの強さを浮かび上がらせる。
メインディッシュはもちろんV6ハイブリッドユニット。ベースの3ℓV6ツインターボはV6エンジン史上最強の663馬力を発生し、さらに電気モーターが最大167馬力を増強する。
アクセルを踏み込めばレーシーなターボの吸気音が響き、高回転ゾーンに入るとフェラーリV12エンジンを彷彿させる狂おしく乾いた排気音を奏でる。モーターによるリニアなアクセルの応答性は低速域のトルクの解像度を高め、ターボがエモーショナルに五感を刺激する。
まるでV12エンジンの官能性に軽量スポーツカーの手触りを融合させた感じ。刷新されたドライブフィールに、官能的なフェラーリらしさが重なる。そのバランス感覚に鳥肌が立ったし、ハイブリッド化によるメリットをエレガントに骨の髄まで堪能させるとてつもないミドシップスポーツなんだ。
もちろんシステム最大値、830馬力を引き出せる唯一のモード「クオリファイング」はSF90と同じく日常使いも考えられている。PHEVには付きものの気になる残存バッテリー量も、この最強モードで走る限り心配無用だった。つまりこの最強モードでどこまでも走れるし、充電することなくサーキットを何周でもすることができる。
ハイブリッド化によって内燃機関の浪漫より進化を選んだように見えて、フェラーリの本質はやっぱり浪漫の塊。そして進化は浪漫も増幅させるんだ。
フェラーリ 296 GTB
サイズ(全長×全幅×全高):4565×1958×1187㎜
排気量:2992㏄
エンジン:120度V6DOHCツインターボ+モーター
システム最高出力:830ps/8000rpm
システム最大トルク:740Nm/6250rpm
駆動方式:MR(ミドシップ後輪駆動)
車両価格:¥37,100,000~
問い合わせ先/フェラーリジャパン
www.ferrari.com/ja-JP
※この記事はPen 2023年5月号より再編集した記事です。