奇才ビート・メイカーを迎え、 際立つポップス職人ぶり

    Share:

    【Penが選んだ、今月の音楽】
    『ヤング・ハーツ』

    01BennySings_A写.jpg
    1977年、オランダ・ドルトレヒト生まれのシンガー・ソングライター。2003年、初ソロ作『シャンパン・ピープル』リリース。以降、コンスタントにアルバムを発表し、新作『ヤング・ハーツ』は通算8作目。J-POP界隈の人気も高く、コーネリアス、テンダー、ヤッフル他、コラボも多数。 photo: Felice Hofhuizen

    20世紀を代表するアメリカの作曲家、バート・バカラックが2月8日に逝去した。享年95。長らくポピュラー・ミュージック界に君臨した最高峰のソングライターの突然の不在に、いまも深い喪失感が世界を覆っている。

    偉人の死の翌月に新作『ヤング・ハーツ』を発表することとなったベニー・シングスも、きっと運命のいたずらに驚いていることだろう。ヒップホップのビート・メイキングを音楽ルーツとする彼が“21世紀屈指のポップ・マエストロ”と呼ばれるまでになったのは、まさにバカラックらの音楽を研究し、メロディメイカーとしての才能を一気に開花させた2005年のセカンド・アルバムからだったのだから。

    以降、恩人に敬意を払うようにエバーグリーンなポップス作を安定供給し続けるベニーにとって、新作は8作目にして初めて、ひとりのプロデューサーとアルバムづくりをした作品となった。カリスマ的人気を誇る奇才ビート・メイカー、ケニー・ビーツを共同プロデューサーに迎え入れたのだ。聞くところによると、ケニーは下準備として、ベニーの持ち味であるヨット・ロック/AORを勉強したのだという。成果は一聴瞭然。ケニーのタイトなビート・メイキングとサウンド・プロダクションが、ベニーのポップス職人ぶりをより際立たせる結果を生んでいるのだ。メリハリの効いたケニーのビートが効果絶大な、疾走感あふれるリード曲「The Only One」はその最たる例だろう。

    TOTOを彷彿させるミディアムAOR、堀込兄弟時代のキリンジと同質の胸キュン・ナンバー、ギルバート・オサリバン流儀の繊細なラヴソングなどのシンプルでポジティブな美曲に加え、才女レミ・ウルフとのデュエットで披露するエキゾティックなボッサ・ポップも含む全11曲に、ポップスの粋が凝縮する。

    ---fadeinPager--- 

    02_J写_BennySings-YoungHearts-websmall.jpg
    ベニー・シングス ビクターエンタテインメント VICP-65610 ¥2,860

    関連記事

    ※この記事はPen 2023年5月号より再編集した記事です。