日本におけるブレザーの歴史を振り返る。「ブレザーのニューヨーカー」はいかにして生まれたのか?

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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ブラックウォッチにオーバーペインを加えた独自のチェック柄の生地が個性的だ。肩パッドを薄くしたナチュラルショルダーモデルで、裏地も極力省いており、着心地も軽やか。デザインはウエストを絞った2ボタンの仕様で、Vゾーンも深く、現代的なブレザースタイルが楽しめる。¥77,000/ニューヨーカー

「大人の名品図鑑」ブレザー編 #3

正統な味わいとスポーティさを兼ね備えたトラッドアイテムの代表がブレザーだ。英国に出自を持ち、やがてアメリカに渡り、アメリカントラッドを象徴としての地位を確立する。日本にはアイビーブームのころに紹介され、何度かの流行を経て、いま再び注目を浴びている。今回は、世界各国から集めたブレザーの名品をお届けする。

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本連載の第1回と第2回で、ブレザーの出自を物語るようなアメリカと英国の名品を紹介したが、では日本でブレザーが着られるようになったのはいつ頃のことだろうか。

1983年に4月に発行された『男子専科』(スタイル社)の別冊付録「ファッション・ウエブスター」で、著者の出石尚三は、1926年(大正15年)に初版が発行された『裁断研究』(木村慶市著)という本に1行だけ「運動正服 ブレイザー Blazer」という記述があり、「ブレイザー」の方が英語の発音に近いと書いている。また1953年に発行された『秘薬』で、著者の三島由紀夫が「彼は紺のブレイザー・コートに、灰色のフラノのズボンの筋をまっすぐに前へのばして、辷りやすい床を悪びれずに河田の机の前へ近づいた」と書いているとも指摘する。つまり服飾業界では大正時代からブレザーの存在は知られていたが、日本でブレザーが一般的に着られるようになったのは昭和の時代。「最近のことだと言わざるを得ません」と出石は述べている。

1950年代になると日本のメンズファッションの多大なる影響を与えたVAN(ヴァン)が石津謙介によって創業されてはいたが、まだまだアイビーはブームになっていない。後にVANのデザインを担当し、現在はファッション評論家として活動するくろすとしゆきは、当時のファッション事情を『アイビーの時代』(河出書房新社 01年)を書いている。くろすは『メンズクラブ』の前身となる1954年発行の『婦人画報増刊 男の服飾讀本』の創刊号で、「アイヴィー・リーグ・モデル」という新しい言葉を発見し、興味を覚えるが、アイビースタイルの象徴と言えるアイビースーツも、ボタンダウンシャツも、なかなか手にいれることができずに、いずれものちにオーダーでつくったと書いている。

1995年に日本経済新聞社が開催した「永遠のアイビー展」の図録でも、くろすは「VANがアイビーを売り出すのが六十年。それまでのVANはおしゃれな大人のカジュアルウエアを作っている会社だった」と述べている。この図録には『アイビーの時代』の表紙を飾った赤いブレザーの解説も書かれていて、このブレザーは55年にイラストレーターの穂積和夫らと共にくろすが結成したアイビークラブのユニフォームで、VANに62年に別注したとある。こうした記述から想像すると、既製品として日本人の多くの人がブレザーを着用するようになったのは、50年代から60年代にかけてのアイビーブームの頃からとみていいだろう。

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オリンピックの赤のブレザーの謎とは?

赤のブレザーで思い出すのが、64年に東京で開かれた第18回オリンピック競技大会で選手団を着用したブレザーだ。64年と言えば、銀座みゆき通りに「みゆき族」が出現し、雑誌『平凡パンチ』(平凡出版、のちのマガジンハウス)が創刊された、ファッション界にとっても節目の年だ。選手が着た赤いブレザーと同じものを以前、今回紹介するトラッドブランドのニューヨーカーのプレスルームで見た覚えがあるのだが、その詳しい話が書かれているのが『1964東京五輪ユニフォームの謎』(安城寿子著 光文社新書)だ。

このブレザーはずっと石津謙介がデザインしたものと思っていたが、実はデザインを担当したのは神田で日照堂という注文洋服店を営んでいた望月靖之という人物だったことが明らかにされている。そして当時、このブレザーの生地を提供したのが、ニューヨーカーを展開するダイドーフォワードの前身にあたる大同毛織だったことも明記されている。ニューヨーカーのプレスルームに記念のブレザーが展示されていた理由はこれだろう。

大同毛織の創業は1879年。1950年に純毛(100%ウール)の紳士服地「ミリオンテックス」を発売し、爆発的な人気となった。同ブランドのウェブサイトをチェックすると、ニューヨーカーというブランドがスタートしたのは1964年。66年にはネイビーブレザーの企画が始まり、68年には早くも女性向けのブレザーも発売している。70年には「Everybody Blazer, Everyplace Blazer」と銘打って全国的なキャンペーンを実施、「ブレザーのニューヨーカー」と呼ばれるほどになった。84年には写真家浅井慎平を迎えて広告やイベントなどを展開、彼の写真を使った電車の中吊り広告などを観たという往年のトラッドファンも多い。ニューヨーカーには日本のブレザーに歴史が息づいていると言っても過言ではない。

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「ブレザーのニューヨーカー」が誇る名品

「ブレザーのニューヨーカー」を代名詞にもつブランドらしく、今シーズンのコレクションも多くのブレザーが揃っているが、特に注目したのが「ブラックウォッチオーバーペイン ライトウェイト マンハッタンモデルブレザー」だ。生地は1980年代に同ブランドで使われていたチェック柄を復刻させたもの。格調高いブラックウォッチをベースにオーバーペインを載せたトラッドらしい柄で、色は6色も使われている。

素材はバスケット織りのウールモヘヤで、ウール90%×モヘヤ10%の構成。肩部分に薄めのパッドを入れたナチュラルショルダーの仕立てで、日本人の体型に合わせて、肩の位置をやや斜め前にすることで肩にフィットし、軽やかで快適な着こなしが楽しめる。デザインはウエストが程よく絞られ、Vゾーンを深く設計した2ボタンの仕様。ボタンも一般的なゴールドではなくシルバーが選ばれているが、ビジネスからカジュアルまで、幅広い場面でこのブレザーを着用することができるだろう。

素材開発から仕立てまで、すべてを自社で行い、日本におけるブレザーの歴史から現在地まで熟知する老舗ニューヨーカーらしい逸品。トラッドファンならずとも、一度は袖を通すべきだろう。

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もともとスポーティさを備えているのがブレザーの強みだ。こんなカジュアルな着こなしをしてもトラッドな印象に仕上がる。ブレザー¥77,000、マリンパーカ¥49,500、Tシャツ¥13,200、ショートパンツ¥15,400、ウエストに巻いたタイ¥13,200/すべてニューヨーカー

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ジャケットの内側に付いた「The Blazer」の織りネームは、80年代のニューヨーカーのブレザーを復刻させたもの。裏地にはオリジナルのシャドーハウスタータンが使われている。

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2023年春夏コレクションのシーズンテーマの雰囲気であるマリンテイストを取り入れたシルバーのブレザーボタン。失われつつある古い技法を使い、職人が手づくりで仕上げた特別なボタンだ。

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紡毛や染色方法、糸の撚りまでこだわった、オリジナルの「ヘリテージクロス」を採用した2ボタンのネイビーブレザー。ウール100%ながら、ナチュラルストレッチ性を備えた生地で、ストレスフリーな着心地が楽しめる。同じ素材でパンツも用意されているので、スーツのようにも着こなせる。¥64,900/ニューヨーカー

問い合わせ先/ダイドーフォーワード TEL:0120-17-0599

https://www.ny-onlinestore.com/

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