約2年3カ月の大規模改修工事を経て、この春、リニューアルオープンを果たした広島市現代美術館。1989年に全国で初めて現代美術専門の公立美術館としてスタートすると、これまでヒロシマとの関連を示す作品を中心に国内外の現代美術作品を収集し、多種多様な展覧会を開いてきた。また市内を見渡す比治山公園に位置する緑豊かなロケーションや、円形の広場を特徴とし、垂直軸に沿って下から自然石、タイル、アルミと変化する素材を用いた建築家・黒川紀章の設計による建物でも人気を集めている。フェルナンド・ボテロや舟越保武などの18点の野外彫刻が点在する、彫刻の広場やムーアの広場といった美術館の周りを散策するのも楽しい。
現在、広島市現代美術館では、『リニューアルオープン記念特別展 Before/After』が行われている。展示では改修工事にていくつもの箇所が生まれ変わったように、なにかが切っ掛けになって生じるさまざまな「まえ」と「あと」の現象や状況に着目。広島県にゆかりのある和田礼治郎や石内都をはじめ、オノ・ヨーコやシリン・ネシャットといった国内外45組のアーティストによる新作を含めた約100点を全館スケールにて公開している。また細かな章立てを行わず、劣化、変質、修復、原子力、爆発、夢、治癒といったキーワードを「#(ハッシュタグ)」として提示し、展示のテーマを伝えているのも特徴だ。それぞれの作品同士や鑑賞者をハッシュタグがゆるやかにつなげているように見える。
2005年に第6回ヒロシマ賞を受賞し、16年ぶりの新規購入作品となったイラン生まれのアーティスト、シリン・ネシャットの『Land of Dreams』に注目したい。アメリカ、ニューメキシコ州で撮影された同作は、地元住民を被写体とした26点の肖像写真と若いイラン人の美術学生を主人公としたふたつの映像にて構成。そのうち映像ではネシャットが長く暮らしてきたアメリカにおける差別や偏見、貧困の問題、さらにアメリカとイランというふたつの国の政治イデオロギーや核政策の不条理の危険性を、住民が語る夢を通して描き出している。また元軍人が核のホロコーストの悪夢について語る場面では、広島の被爆者の言葉も引用された。「実は自らの未来を夢見ていた?!」どこか謎めいていて、多様な解釈を呼び込むような物語の結末もショッキングといえる。
リニューアルに際しては、屋根や床の張り替えから照明のLED化といった展示室の機能を更新するとともに、エレベーターを増設し、多目的トイレを新設。また一新したサインにはジェンダー平等の視点が取り込まれ、新たなピクトグラムは建物の意匠からかたちを引用して作られている。このほか、エントランス横には新たにガラス張りの空間が増築され、多目的スペース「モカモカ」や素材にこだわったサンドイッチやコーヒーを味わえるカフェ「KAZE」ができるなど、美術館としての魅力も大いに高まった。日本の公立の現代美術館としては最も古い歴史を有しながら、いま最も新しくチャレンジングな展示や取り組みを行う広島市現代美術館へと足を運びたい。
『リニューアルオープン記念特別展 Before/After』
開催期間:2023年3月18日(土)〜6月18日(日)
開催場所:広島市現代美術館 A展示室・B展示室
広島県広島市南区比治山公園1-1
TEL:082-264-1121
開館時間:10時~17時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月
入場料:一般1,600円
www.hiroshima-moca.jp