「もっといいクルマづくり」を進めた、一台のスポーツクーペ

  • 文:多田 潤
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2016年発表、17年にデビューしたレクサスLC。ハイブリッドモデルの変速機も革新的な機構をもっていた。

 

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のびやかな自然に映えるグラマラスなボディ。走りもヨーロッパの高級モデルに迫るものだ。

 

トヨタの社長が4月より佐藤恒治さんになりました。佐藤さんはレクサスGSの開発に携わり、レクサスLCの設計統括をされた方です。2017年2月、ハワイ島で開催された試乗会において、佐藤さんから伺ったLCに懸ける熱い想いはいまでも忘れられないものです。

現会長の豊田章男さんの発案ではじまった「もっといいクルマづくり」。そのスローガンを具現化するために佐藤さんはGSのシャーシを徹底的に改造、理想のハンドリングや乗り心地を詰めに詰めて章男さんにテストコースでハンドルを握ってもらってプレゼンをしたそうです。ハンドルを握ることで通じる共通言語で、LCの開発責任者が佐藤さんに決まったのです。LCをハワイ島で最初に見たとき、そのグラマスなボディと艶やかな色にわくわくしたのを覚えています。低いフロントボンネットに張り出したフェンダーが大地を這うようで、ハワイ島の豊かな自然にLCのボディが引き立てられていました。

 

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2017年2月にハワイ島を舞台に行われた国際試乗会の様子。大自然を感じるダイナミックなプログラムだった。

 

試乗は自然給気V8エンジンのLC500とV6エンジンハイブリッドのLC500h。ハワイ島の伸びやかな道路ではV8エンジンを低回転でまわしながらのんびり走るのが最適でした。ボディの迫力、スムーズに心地よく吹け上がるエンジンや快適性にヨーロッパの高級スポーツカーの背中が見えた感じがしました。そんな試乗を終えたあとの佐藤さんのインタビューでは「大排気量スポーツクーペの最終形を考えた」や「美しいホテルのエントランスから走り出す瞬間の動きを考えるとトルコンの変速機しか考えられなかった」や「LCがいちばん映える撮影場所は、カリフォルニアの峠の終点にある海に向かって降りる坂道」など、クルマに惚れ込んだスポーツカー好きの数々の言葉でした。自動車開発者としてシンプルにして明快で的確なビジョンは、彼が茶道を習うことも理由かもしれません。そんな佐藤さんはやがてレクサスのプレジデントになり、現在はトヨタの社長に内定します。

 

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レクサス初の量産バッテリーEVの開発責任者にしてレクサスのプレジデントに就任した渡辺剛さん。

 

そんなタイミングでレクサスRZの試乗会で新しいレクサスのプレジデント、渡辺剛さんにお会いする機会がありました。RZの足まわりの完成度の高さから、17年のLC試乗会の話をすると「私もLCの開発に携わっておりまして、不運にもハワイに行けなかった悔しさを覚えています」とのこと。佐藤さんとともにLCを仕上げた技術者のひとりが、渡辺さんだったのです。RZはレクサス初の量産バッテリーEV(BEV)。内燃機関のクルマやハイブリッド車とは開発の「一丁目一番地」からまったく方法が違うとおっしゃっていましたが、世の中に出揃ったBEVのなかでレクサスだけがもつ独特の味がすでにありました。

豊田章男さんが、クルマづくりの本筋に立ち返るために据えた「もっといいクルマづくり」。それに応えたのが、佐藤さんをはじめとするトヨタのエンジニアたち。彼らの真摯な姿勢は、佐藤さんから渡辺さんへと引き継がれ、内燃機関の自動車からBEVにバトンが渡されているのです。巨大な自動車メーカー、トヨタ。その開発陣は意外にも情熱のある自動車好きが集まっていることに感動しました。

多田 潤

『Pen』所属のエディター、クルマ担当

1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。

多田 潤

『Pen』所属のエディター、クルマ担当

1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。