日本屈指のジャズ・ドラマーであり、Answer to Remember、SMTK、CLNUP4など複数のグループを率いてアグレッシブにシーンの先端を突っ走る石若駿。最近ではアニメ映画『Blue Giant』のサントラ参加、くるり、椎名林檎のツアー・バンドのメンバーのほか、学生時代の盟友、King Gnuの常田大希のプロジェクトである、millennium paradeのメンバーなどジャンルを超えた多彩な活動は、いまや日本の音楽シーンの隠れたキーマンというべき存在だ。
その彼のもうひとつのプロジェクト、Songbookが2年ぶりの新作『Songbook6』をリリースした。タイトル通りこれで6作目。ドラム、ギター、ボーカルにホーンなどアコースティックな音の響き合いで聴かせるSongbookは、多彩な活動のスピンオフ的な存在という印象がある。超多忙な彼に新作について話を聞いてみた。
ーーSongbookはその名の通り歌に特化したプロジェクトだと思います。始めた理由についてお話ください。
「僕はインスト音楽を演奏することが多いのですが、歌のある音楽も好きだったんですね。自分で作詞作曲して演奏するという機会が少なく、歌のある音楽をやりたいと思っていた時に、学校の先輩の角銅真実さんが、マリンバを弾きながらオリジナル曲を歌うライブを見て、カッコイイと思って。それがきっかけで角銅さんに作詞と歌をオファーして、数年の時を経て、2016年にファーストアルバムをリリースしました」
ーーSongbookのサウンドは徹底してアコースティクでシンプルですね。これは歌を活かすためかと思いますが。
「もちろんそうです。自分が書いた楽曲の意味が深まるというか。かつてのジャズライブで僕のつくるメロディ感とハーモニー感が、インストだと物足りなさを感じたことがあって。でも歌詞や声の力が乗ると、自分のつくった曲が強力になった、よくなったなと思ったのもきっかけのひとつで、そこからずっと続けているという感じですね」
ーー歌詞、メロデイも含め、楽曲として完成度が高いと思います。
「日頃思っていることでも(時間が経つと)忘れちゃう。忘れないように記しておく存在なんですかね。座右の銘と言ったら言い過ぎかもしれない(笑)、ずっと自分のなかにあるものかな」
ーーこれでEPとして6作目。EPとはいえ6作ともなるとなかなかの作品量だと思います。継続している理由はなんでしょうか?
「日々の記憶というか、人生をなにかのかたちに残す的な。いま、遡ってSongbook2を聴き返すとあの時、こういう風に思っていたな〜とか思い出せるんですよね。自分の中のアーカイブというか。僕は、いろんな活動をしていますが、(Songbookに)ギュッと詰まっているというか。記憶をかたちに残すところがある。ライフワークと自分で言っていますが、それを続けることで、昔に立ち返ることができますね」
ーー今回は角銅真実(Vo)、西田修大(Gt)らsong bookの基本メンバーに加え、松丸契(Clarinet)、細井徳太郎(Vo)、マーティ・ホロベック(B)の他、さらに複数のメンバーが加わり、以前にも増して深みや膨らみを感じさせる仕上がりになっています。石若さんのボーカル曲もありますしね。
「毎回レコーディングするたびに勉強になるんですよ。たとえば今回はベースのマーティの演奏は、メチャ格好いいけど、もうちょっと低音を足したらいいかなと思って、ベースのさらに下にシンセベースを弾いたりとか、そういうアイデアが浮かんで。結果、リズムがマッチョになったし、立体的になる。そういうことで繊細な音楽の心が大きくなる、気が大きくなるみたいな。そういう作業が好きだったり。演奏者にアイデアを出してもらって、重ねていくのが、今作の特徴かなと思いますしね」
Songbookの歌の数々は、新鮮な発想のメロディラインがまず耳を捉える。爽やかでもあり、軽やかでもあり、明るく開かれ、聴き手の予想を超えたランドスケープを見せてくれる。Songbookは彼の活動のスピンオフと先述したが、このプロジェクトからは彼の音楽の素地が感じられ、さまざまな活動の中の肝ともいえるのではないだろうか。
「曲を書いた時にどういうサウンドにしようかと、最終的に想像するのですが、それになるべく近づけようと頑張った作品ではありますね。Songbookはなにをやっても自由だという気持ちはあります。オーケストラやコーラスを入れたり、いろんなアプローチが出来る場所でもあります。僕がドラムを叩かなくてもいい場所がSongbookだなと思います」