石川県・小松のオーベルジュで愉しむ、“神の酒”と前衛的地方料理の共演

  • 編集&文:佐野慎悟
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「小松サケトロノミー」のイベントにて、レヴォ谷口英司シェフのアミューズとして提供された、有機の酒米をすっぽんから抽出したコンソメで炊いた炊き込みご飯。農口尚彦研究所のヴィンテージ限定酒「ノグチナオヒコ 01」とペアリング。

石川県小松市を「美食のまち」として世界に発信し、地元農産物や食に関わるクリエイターたちの発信拠点を創造していくことを目標に発足された小松市美食バレー実行委員会が、日本酒とガストロノミー(美食)の融合をコンセプトとしたペアリングイベント「小松サケトロノミー」を開催した。

小松市美食バレー実行委員会は、酒蔵である農口尚彦研究所が中心となり、有機米生産者の護国寺農場と、有機野菜生産者の西田農園が参加するかたちで発足した。農口尚彦研究所は、日本最高峰の醸造家のひとりで、「酒づくりの神様」の異名をもつ農口尚彦杜氏の技術や精神を研究し、次世代へと継承していくことをコンセプトに、2017年に新設された酒蔵だ。

同委員会が2019年から開催している「小松サケトロノミー」の第七回目となった今回は、“前衛的地方料理”と称される富山県利賀村(とがむら)のイノべーティブ・レストラン「レヴォ」の谷口英司シェフを招聘し、農口尚彦研究所に隣接するかたちで昨年開業した「オーベルジュ オーフ」で開催された。レヴォの谷口シェフと、オーベルジュ オーフの糸井章太シェフ。北陸の美食を世界に発信するふたりのシェフが、一夜限りの共演を披露した。

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左から:オーベルジュ オーフの糸井章太シェフ、農口尚彦研究所の農口尚彦杜氏、レヴォの谷口英司シェフ。
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北陸各地から厳選した食材をもち寄り、お互いの持ち味を引き立てあいながらメニューを構成していく谷口シェフと糸井シェフ。

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北陸の食材と美酒が織りなす、唯一無二のマリアージュ

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 オーベルジュ オーフと農口尚彦研究所がある観音下町(かながそまち)の名産、日華石のプレートに乗せて供されたアミューズ。酒粕焼酎で酔っ払わせてから揚げたどじょう、ぬか床で一夜漬けにした鯖、米麹を使用したトマト麹につけ込んで作った猪のハム、熊の手のクロケットなどを、長期低温熟成による凝縮された旨味と上品な酸が特徴のヴィンテージ限定酒「ノグチナオヒコ 01」とペアリング。5℃の冷酒で提供された。

2023年現在、東京と金沢間で運行している北陸新幹線は、24年の春には敦賀まで延伸され、小松もその停車駅となる予定だ。これまでは、石川県といえば、まず金沢、能登、加賀温泉などが観光スポットとして挙げられていたが、小松がもつ食、自然、または文化的ポテンシャルにおいても、今後大いに花ひらくことが予想されており、いま国内外から熱い視線を集めている。

その中心にあるのが、「酒づくりの神様」と呼ばれる農口尚彦が杜氏を務める農口尚彦研究所と、30歳の若きシェフが率いるオーベルジュ オーフだ。小松駅からクルマで約30分の距離にある観音下町に隣接する両者は、どちらも小松の自然豊かな山里に育まれた、良質な水や食材の魅力を最大限に活かすことで、ここにしかないオリジナリティあふれる個性を表現している。この日もオーベルジュ オーフでは、地元の生産者や漁師から届いた新鮮な肉、魚、野菜に加え、オーベルジュ周辺の野山で採れた、山菜や野草もふんだんに使われた。

「僕と谷口シェフで、いま一番使いたい食材を持ち寄って、その魅力を活かすための方法を話し合いながら、一皿ずつ共作で考案させていただきました」と、オーベルジュ オーフの糸井シェフは語る。そのメニューに農口尚彦研究所の酒をペアリングする際にも、ソムリエは酒の温度やグラスの種類を変えながら、それぞれの酒の個性を最大限に引き出しつつ、料理との相乗効果を演出した。まずは美食と酒を通じて、まだ知られていない、小松の魅力に触れてみるのもいいだろう。

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石川県の漁港で揚がった新鮮な鰯を、生姜などでマリネした一皿。西田農園の「ヒノナカブ」とジェノベーゼのようなソース、石川県の伝統調味料「いしる」を使用したソース、そして大葉のオイルが合わさって完成された一品。生原酒を3年間低温熟成させることでトロミの出た「本醸造 無濾過生原酒 2019 ヴィンテージ」を5℃の冷酒で提供。鰯の脂分と調和させた。
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谷口シェフを象徴する食材のひとつであるレヴォ鶏のブイヨンに、山羊のチーズを溶かしたスープで供された大門素麺。仕上げには、オーベルジュ オーフ周辺で採れたふきのとうを使ったオイル。ペアリングは、グレープフルーツのような酸味と、余韻の風味がミントやハーブを彷彿させる「山廃美山錦 無濾過生原酒 2018 ヴィンテージ」を人肌の35℃で提供。クリーミーさとボタニカルな味わいが調和した爽やかなペアリングとなった。
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石川県白山市で育てられた仔羊をシンプルに薪焼きにしたものと、同じく仔羊のミンチをほうれん草の生地で巻いたタコス。ペアリングは、しぼりたての新鮮な酒粕を減圧蒸留し、吟醸酒の香りと米の旨みが凝縮された農口尚彦研究所の酒粕焼酎を、前日のうちに仕込水で1対1で前割りして馴染ませた水割りに、氷を浮かべて提供。対照的なペアリングとして、山廃愛山の45℃の上燗も同時に提供された。

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谷口英司●1976年、大阪府生まれ。高校卒業後に就職したホテルでフレンチと出会い、国内外の様々なレストランで経験を積み重ねる。2010年に富山に移り、14年に「レヴォ」を設立。20年に富山県南砺市利賀村に移転し、オーベルジュとして再オープン。『ミシュランガイド北陸 2021』では2つ星を獲得、『ゴ・エ・ミヨ2022』では17年に続き2度目の「今年のシェフ賞」を受賞。
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糸井章太●1992年、京都府生まれ。調理師専門学校を卒業後、系列校のあるフランスに留学。日本をはじめ、フランス、アメリカで研鑽を積む。『RED U-35 2018』では、当時26歳で最年少グランプリ(RED EGG)を受賞。2022年7月、石川県小松市観音下町にて開業した「オーベルジュ オーフ」のシェフに就任。
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農口尚彦●1932年、石川県生まれ。能登杜氏で知られる石川県能登町にて、杜氏一家の三代目として生まれる。16歳から酒造りの道に入り、27歳と異例の若さで杜氏に就任。「能登杜氏四天王」の一人として一躍有名になる。73年代以降低迷を続けた日本酒市場の中で、吟醸酒ブームの火付け役となる。また、戦後失われつつあった山廃仕込み復権の立役者ともなった。2017年11月より農口尚彦研究所の杜氏に就任し、生涯最高の酒造りと後継者育成に取り組んでいる。
 
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●オーベルジュ オーフ
住所:石川県小松市観音下町ロ48
電話番号:0761-41-7080 全12室
料金:1泊2食付き2名1室の1名料金¥37,500~(税、サービス料込み)

【レストラン】
営業時間:12~13時L.O.(土・日・祝のみ)、17時30分~20時L.O. 
定休日:火、水曜(祝日の場合は営業)

 

問い合わせ/小松市美食バレー実行委員会
https://komatsu-bishoku.jp