フォンダシオン ルイ•ヴィトンが主催する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環として、所蔵コレクションよりジャコメッティの彫刻作品7点を展示する「アルベルト・ジャコメッティ」展。エスパス ルイ•ヴィトン大阪にて6月25日まで開催中の展示を訪れた。
会場に入り、最初に出迎えてくれる作品は、『大きな女性立像II』(1960年)。ニューヨークのチェイス・マンハッタン銀行本店前の広場に設置される予定で制作された、ジャコメッティの手による最も大きな彫刻作品だ。会場には、パリ14区イポリット・マンドロン通りのアトリエで撮影された写真が引き伸ばされてパネルとなって設置されており、どのように制作と向き合っていたのだろうかと想像力が刺激される。フォンダシオン ルイ•ヴィトンのアーティスティックディレクターでチーフ・キュレーターを務めるスザンヌ・パジェは、展示デザインについて次のように説明する。
「ジャコメッティは生前より、自分の作品の展示方法に最大限の注意を払っていたアーティストであり、また、エキシビションというのは何よりも、空間と作品との正しい距離感を守るヴィジュアル・コンセプトに立脚していることを前提としなければいけません。それらを踏まえたうえで私たちは今回、建築家で空間デザイナーのジャン=フランソワ・ボダンの協力を得て、劇的効果をもたらす要素をできるだけ避けた『控えめな』空間演出を構想しました」
会場を中に進むと、フォンダシオンがジャコメッティの作品を蒐集する際に優先して選んだ、第二次世界大戦後に制作された作品が複数並ぶ。ジャコメッティが20歳のとき、「声にならない叫び」を聞きながら友人の死を看取った体験から着想した『棒に支えられた頭部』(1947年)。互いの孤独に肉薄したとしても、他者の孤独はあくまでも計り知れないという絶望を表現した『3人の歩く男たち』(1948年)などだ。
「シュルレアリスムと決別し、空想的でポエティックなインスピレーションを放棄した当時のジャコメッティは、イポリット・マンドロン通りの簡素なアトリエにこもり、実在する人物モデルの写生を起点として、探求しても『把握が不可能な現実』を追求しました。芸術の目的としての『真実』を、そして、現実の美学を探求するために、モデルと向き合ったのです。こうしたアプローチに伴う苦悩や絶望が—当人はこれらを挫折の連続と捉えていましたが—ジャコメッティの創作の核を成したのです。そうした姿勢は、戦時中および戦後のフランスが置かれた厳しい状況とも呼応していました」
そうして到達したのが、細長くゴツゴツしたシルエットで人物像を仕上げる作風だ。ジャコメッティは自分が信頼する家族や知人をモデルに、正面からその目を見据え、人間の本質を描き取ろうとデッサンを続けた。社会性や人間関係、個人の苦悩や希望、喜びや悲しみといった感情など、あらゆる要素を内包し、人間の奥深くにあって消えない核のようなものをモデルから見出し、徹底して削ぎ落とした描写によってそれを表現しようと試みた。作品に満足することはなく、どのようにしたらその本質に到達できるのかと苦悩しながら、制作を続けていた。ジャコメッティがじっとモデルを見つめ、制作したように、会場を訪れたらただ作品と向き合い、じっとその目を見つめて欲しい。目の表現ができたときに、粘土の塊が生命を備える彫刻作品に転じると考えた彫刻家の目線を追体験することができるはずだ。
『アルベルト・ジャコメッティ』展
開催期間:開催中〜2023年6月25日(日)
開催場所:エスパス ルイ•ヴィトン大阪
大阪府大阪市中央区心斎橋筋2-8-16 ルイ•ヴィトン メゾン 大阪御堂筋5F
TEL:0120-00-1854
開館時間:12時〜20時
※4月13日(木)のみ、開館時間は12時〜14時。休館日はルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋に準じる。
入場無料
www.espacelouisvuittontokyo.com