新生活が始まる春は、一年の中で最もテーラリングが気になる季節。これからどのようなスタイルで、どのような生活を送るのか、未来の自分の姿を思い描きながら、店頭でさまざまな種類のテーラリングアイテムを眺めているだけでも、とてもポジティブなモチベーションが湧いてくる。そんなタイミングに合わせて来日したのが、ブランド創設以来、50年以上にわたり最先端のテーラードスタイルを提案し続けてきたポール・スミス。フラッグシップショップのみで展開される「ラグジュアリー・テーラリング」やスーツのオーダーサービス「メイド トゥ メジャー」を通して、テーラリングアイテムの楽しみ方を伝えるために、ポール・スミス大阪店を訪れた。
昨年よりスタートした「ラグジュアリー・テーラリング」に対し、顧客から予想を大幅に上回る反響を得て、ポール・スミスはいまの世相をこう分析した。
「パンデミックの影響で、ドレスコードの緩和やリモートワークなどのライフスタイルが染み付いた私たちは、数年ものあいだ、スウェットやジャージー素材などのカジュアルな服ばかりを着るようになっていました。最近になり、また自由に外出ができるようになってからは、その反動もあって、みんなの意識の中で『もっとドレスアップしたい』という欲求が高まっているように感じます。しかしドレスアップとは言っても、格式ばったクラシックなスタイルというよりも、いまは軽くて、着心地がよくて、気軽に着られるものを探していると思います」
1970年のブランド創設以来、ポール・スミスのスタイルの根底には、テーラードスタイルがある。デザイナーのポール自身もまた、テーラードアイテムの魅力を体現してきた人物だ。いつの時代においても、ただクラシックな美学を踏襲するばかりに留まらず、軽く、着心地がよく、気軽に着られ、かつ革新的でファッション性の高いものを提案し続けてきたという点において、世に数多あるビジネススーツブランドとは明らかに一線を画す存在と言える。ポール・スミスはスーツブランドではなく、ファッションブランドなのだ。
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いま、テーラリングに上質さを求める理由。
ポール・スミスでは、ファッションショーで披露されるテーラリングをはじめ、ビジネススーツやカジュアルジャケットまで、実にバリエーション豊かなテーラードアイテムが揃う。上質で長年着られるものが求められる近年のニーズの高まりもあり、中でも徐々に注目度が高まっているのが、「ラグジュアリー・テーラリング」と「メイド トゥ メジャー」だ。
「新型コロナのパンデミックで外出できない時期に、私は16週間ロンドンのスタジオで、たった一人きりで仕事をしていましたが、その期間も毎日スーツを着ていました。ポール・スミスのスーツはそれだけ快適につくっていますし、その日の気分によってTシャツやスニーカーと合わせたり、ポロシャツやタートルネックニットと合わせたりと、幅広いスタイリングが楽しめるので、いつまでも飽きることがないんです」
昨年から展開している「ラグジュアリー・テーラリング」では着心地のよさを追求し、最高峰のクオリティの生地を厳選して採用することで、文字通りラグジュアリーなテーラリングアイテムを提案している。
「パンデミックの時期は、世界中の人たちが、いろいろと悩んだり、落ち込んだり、困難な毎日が続きました。だからようやくそれを乗り越えたいまは、みんなが特別なよろこびを求めているように感じています。肌触りがよく、質感の美しい最高級の生地や、丁寧につくられた着心地のいいスーツは、着る人によろこびと誇りを与えてくれるでしょう。新しい仕事場や、新しい出会いの場へと向かうときに、自分を幸せにしてくれるスーツを着ていると、それだけで自信が湧いてくるはずです」
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一貫して守り続けてきた、革新を求める“攻め”の姿勢
ブランド創設以来、一貫してテーラードスタイルを主力として打ち出してきたポール・スミスだが、実は彼自身はサヴィル・ロウで修行をした経験も、ファッションの学校でテーラリングを学んだ経験もない。
「テーラリングのデザインは、思い立ってすぐにできるようなものではありません。私と同世代のデザイナーたちはニットやシャツといったカジュアルウェアを主力にして、テーラリングを提案する人は誰もいませんでした。けれども私がブランドを立ち上げた当時のガールフレンドで、現在の妻であるポーリーンがロイヤル・カレッジ・オブ・アートでクチュールファッションを学んでいたので、最初のコレクションでは彼女がデザインを担当し、私も彼女から学ぶかたちで、テーラリングの技術や知識を徐々に身につけていきました」
そうやって、伝統と格式がものを言うブリティッシュ・テーラリングの世界に足を踏み入れた若きポールは、人々が名門のテーラーではなく、ポール・スミスでスーツを買うことの意味を考えた。その結果導き出した答えが、いまでは彼のスタイルを象徴する普遍的なデザイン・フィロソフィーとして知られる、「Classic with a twist(ひねりのあるクラシック)」だ。自身でも語っているように、どんな場面でも常にスーツを着ているイメージをもつ彼だが、ドレスシャツをタイドアップするという、いわゆるルール通りの着こなしは滅多に見られない。その代わり、クルーネックのTシャツを合わせたり、デニムシャツやタートルネックニットを合わせたり、スニーカーやカラフルな靴下と合わせたりと、文字通り“ひねり”の効いた自由な着こなしを楽しんでいる。伝統や格式に囚われず、常に自分らしく、自由な発想でファッションを楽しむポールの姿自体がスタイルであり、テーラリングの楽しさや魅力を、なによりも雄弁に物語っている。
「私自身が初めてスーツをオーダーしたのは、18歳のころ。とにかく人と違うことをやりたかったから、ピンクとグリーンで2種類のスーツをつくりました(笑)。私の両親は、髪を伸ばして、変な服を着て、変な声で歌うボブ・ディランという男の歌を聞いているおかしな子どもの様子を、なかば怯えながら見ているようでしたが、当時の私たちにとっては、誰かと同じ格好をして、どこかのグループの一員になるなんてことにはまったく興味がなく、個性こそがすべてだったんです。スーツの着こなしも、ルールなんてものに縛られずに、自分なりのやりかたで、モダンに着こなすほうが面白いですよね」
デヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガー、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ……。当時の時代を代表するスターたちも、そんなポール・スミスの自由で新しい考え方に共感した。
「シルエットや生地の種類はもちろん、ライニングやステッチの色、ボタンの種類、合わせる靴下、サスペンダー、チーフ、アクセサリーなど、テーラードスタイルには、人と違った個性を表現できるポイントが無数にあります。現代は、みんなが時間に追われて走り続けているような世の中で、細かいところに気をつかうことがどんどん少なくなっているように感じられます。だからなにも考える必要がなくて、どんな場面にも馴染みやすい黒のアイテムばかりがワードローブに増えるのです。自分自身の個性としっかりと向き合って、自分だけのスタイルを見つける時間も、とても贅沢で有意義な時間だと思います」
ポール・スミスの「ラグジュアリー・テーラリング」は、ポール・スミス銀座店、丸の内店、大阪店の3店舗にて、「メイド トゥ メジャー」は上記に加え、日本橋三越本店、ジェイアール名古屋タカシマヤ、阪急メンズ大阪、アミコ徳島の計7店舗にて常設展開中。自分らしい"ひねり”の効いた一着との出会いは、新しいスタイルの扉を開いてくれることだろう。
●問い合わせ先/ポール・スミス リミテッド TEL 03-3478-5600 www.paulsmith.co.jp