衣食住の様々な分野にわたり、江戸から東京へと継承されてきた“東京の宝”。今も東京の街で“きらり”と輝く伝統の技術や産品などを、新しい視点から磨き上げ、世界へと発信していく「江戸東京きらりプロジェクト」。同プロジェクトが企画する特別な展覧会「江戸東京リシンク展」が、3月11日から15日の会期で開催された。
会場はWBCの熱気で沸く東京ドームに隣接する小石川後楽園。江戸時代初期の寛永6年(1629年)に水戸徳川家の祖・頼房が江戸屋敷の庭として増築を開始し、二代藩主である光圀が完成させた見事な回遊式築山泉水庭園だ。
一昨年は「和敬塾 旧細川侯爵邸」、昨年は「旧岩崎邸庭園」でオンライン開催された第1回、第2回の展覧会に続き、今年もディレクターを務めたのは現代美術家の舘鼻則孝氏。第3回目にして初のリアル開催となった今回の「江戸東京リシンク展」では、東京の伝統産業事業者が保有する貴重な歴史的資料とともに、伝統の技と舘鼻氏とのコラボレーションによって生まれた新たなアート作品が一般公開された。
普段は庭園の景観が楽しめる茶寮として使われる園内の涵徳亭では、江戸切子(華硝)や江戸木版画(高橋工房)、和太鼓(宮本卯之助商店)や東京くみひも(龍工房)、江戸組子(建松)や新江戸染(丸久商店)など、今回、舘鼻氏がコラボレーションした伝統産業事業者が実際に使う道具類などを展示。江戸から東京へ、先人たちから継承されてきた技と手仕事の温もりを、まさに来場者が体感できる仕掛けだ。
そして何と言っても見どころは、国の特別史跡および特別名勝に指定される名庭のそこかしこに配置された、江戸東京の伝統産業事業者と舘鼻氏によるコラボレーション作品。
普段は内部が公開されていない得仁堂に飾られた、古くは子どもの誕生祝いに贈られてきたという小さな和太鼓を使った雷鼓のような作品にはじまり、八卦堂跡の木漏れ日を受けて美しく輝く雷鳴紋様の江戸切子、さらには舘鼻氏の代表作である「ヒールレスシューズ」をくみひもの技法を使って大胆に再構築した作品まで、初春の庭園を飾る6点の作品を多くの来場者が堪能した。
「私自身が創作のテーマとする“Rethink”と、江戸東京きらりプロジェクトのテーマである“Old meets New”はとても近い概念であり、今回も伝統産業事業者の皆様との相乗効果を感じながら作品をつくらせていただきました。伝統工芸という形でのみ残る地方の技術などとは違い、東京では今も伝統の技法が産業として暮らしに息づいています。だからこそ私自身も、東京にこれだけの素晴らしい伝統産業の事業者がいらっしゃることに気付けずにいました。その一つひとつに光を当てて、今回のコラボレーションのような新しい取り組みとして紹介できたことは、江戸東京で受け継がれた伝統の技を未来に繋ぐという意味でも非常に有意義なことだと考えています」(舘鼻氏)
普段の暮らしではなかなか気づくことができない、足元にある地域の小さな宝。まさに“きらり”と光るその魅力に目を向けるきっかけをくれた、江戸東京の過去と現代を結ぶ特別な展覧会だった。