現代Jポップの名手が放つ、深遠に潜むクラシック

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『After the chaos』

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東京都生まれ。音楽プロデューサー。映画音楽の制作も担当しており、2017年『ナラタージュ』の他、サウンドトラックを手がけた20年の『映画 えんとつ町のプペル』ではアニメーション界のアカデミー賞と呼ばれる第49回アニー賞で最優秀音楽賞にノミネートされた。 © Rob Walbers

かつてドイツ・グラモフォン(以下DG)といえば、クラシック界の帝王とも呼ばれた指揮者カラヤン、日本人なら小澤征爾といったスター揃いで保守的音楽レーベルの象徴だった。だが王道路線はキープしつつ、20年ほど前からはクラブミュージックの文脈にいる音楽家たちがカラヤンの録音を大胆にリミックスしたアルバムを出すなど、クラシックをより広い聴衆へとリーチすべく、他ジャンルのミュージシャンを大胆に起用する最先端のレーベルへと変貌した。近年では2017年にABBAのB.アンダーソン、20年にB.イーノ、21年にはモービーといった大物がDGから新譜を出している。

日本ではクラシック専門のDJ水野蒼生がDGと契約。21年にはROTH BART BARONの三船雅也らがゲストに迎えられ、オペラアリア等を現代的に歌った魅力的なカバー集が出ていた。そして今年DGから新たにアルバムをリリースするのは、藤井風、iri、SIRUP、小袋成彬、Salyu、Uru、adieuといった、現代日本のポップシーン最先端をいくアーティストたちのプロデュースを担うYaffleだ。クラシック音楽の最新型として、いま世界で人気のポスト・クラシカル。その中心地アイスランドに飛び、現地の歌手たちとコラボレーションした結果聴こえてくるのは、紛れもなく2020年代最新と断言できるポップミュージック。むしろ、これのいったいどこがクラシック音楽なのかと訝しがられるかもしれない。だが表面の現代的サウンドから一層潜ったレイヤーから聴こえてくるのは弦楽器の伝統的な奏法や、ポスト・クラシカルの文脈で再評価されるアップライトピアノ的なくぐもった音色……。現代のポップミュージックにおいても、クラシック由来の音が大衆の心を惹きつける力をもっているのだと、Yaffleは証明してくれる。

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02_After The Chaos_ジャケット写真.jpg
ヤッフル ユニバーサル ミュージック UCCG-1898 ¥3,300

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※この記事はPen 2023年4月号より再編集した記事です。