石ノ森章太郎の最晩年の作画アシスタントとして、クリエイターのキャリアをスタートさせた早瀬マサト。彼が当時目撃した、石ノ森の作画とストーリーに宿る、そのすごさとは? 現在発売中のPen最新号『シン・仮面ライダー徹底研究』より抜粋して紹介する。
Pen最新号『シン・仮面ライダー徹底研究』では、映画『シン・仮面ライダー』の公開に合わせ、初期のテレビシリーズや石ノ森章太郎の功績を振り返りながら、庵野秀明監督をはじめとするクリエイターたちのこだわりや、仮面ライダーやサイクロン号などのデザイン、出演者たちの想いを徹底取材!
『シン・仮面ライダー徹底研究』
2023年4月号 ¥950(税込)
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石ノ森最後のアシスタントが受け継いだ創作精神とは
石ノ森章太郎の最晩年の作画アシスタントとして、クリエイターのキャリアをスタートさせた早瀬マサト。学生時代に『仮面ライダーBlack』(1987年)が新連載されたのを見て、いてもたってもいられなくなり、石森プロの「アシスタント募集」に応募したという。そんな早瀬さんから見た師はどんな人物だったのか?
「『仮面ライダー』は、私が幼稚園の時にスタートしたテレビ番組、漫画作品で、夢中になっていたヒーローです。先生が久しぶりに仮面ライダーを描くというので色めき立ち(笑)、学校卒業のタイミングで石森プロに入社しました」
早瀬さんが石森プロに入って、まず驚かされたのが、石ノ森の作画スピードだった。当時石ノ森は月に300枚ほどの原稿を描いていた時期である。
「先生の執筆室はアシスタントの部屋に隣接しているんですが、ドアが開けっ放しになっている。先生は描いた原稿を投げてよこし、それを扉近くに座っているアシスタントが拾うんですが、インクが乾かないうちに次の原稿が飛んでくる。拾うのが追い付かないほどの執筆スピードでしたね」
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石ノ森の超人的な仕事ぶりに接してきた早瀬さんだが、後に平成ライダーでキャラクターデザインに関与する。仮面ライダーを後世に引き継ぐ役割を担う彼にとって、仮面ライダーの魅力は「異形さ」だという。
「それまでのヒーローというのはスタイリッシュでカッコいいデザインでした。それに対し仮面ライダーは、泥臭く、怪人のような異形の者です。先生は、カッコいい悪いではなく、『心にズキュンと刺さるものがないとヒーローとしては成立しないんだ』という確固たる思いをもっていました」
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石ノ森作品の魅力は、ストーリーにも含みがある点だ。
「異形の者が人間とは異なる力を得て、それに苦しみ、人間には戻れない十字架を背負いながら組織に立ち向かう、という構図がベースにあります。悪の組織とヒーローの誕生を同時に描くことで、制限されたページの中で敵の非情さを描き、しかも主人公に悲哀をもたせて、より感情移入させることができる方法論なんです」
早瀬さんは平成ライダーに参加したことで、石ノ森のすごさを再認識させられたという。その一例が仮面ライダーの目の位置だ。
「平成ライダーの目は人間の目と同じ位置にあるんですが、先生が描いた仮面ライダーは、人間の目より上、バッタの目の位置にあります。通常、キャラクターをデザインする場合は、人間の目と同じ位置にあるほうがバランスがとりやすく、違う位置だとしっくりこないんです。それでも成立している仮面ライダーはやはりすごい。先生は天才であり、“異才”でもあったのだと思います」
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早瀬さんは仮面ライダーを構想中の石ノ森のアイデアノートを見て、びっくりしたこともある。カタツムリをモチーフにしたデザインが何枚も残っていたのだ。
「カタツムリは仮面ライダーと相反する特徴の動物です。普通の人は思いついたとしても、デザインに起こすまではしませんよね。先生は、ヒットした過去の作品の踏襲でよしとせず、常に新しいものにチャレンジしていました」
継承者として大切にしているのは物語のコアにある部分だ。
「忘れていけないのは、『戦う』ことは『痛み』を伴うということです。仮面ライダーは、戦っている中の人間のことは誰も知らないし、称賛されることもない。そういったヒーローの孤独、心の痛みはデザインにも反映されていて、石ノ森ヒーローのマスクデザインの特徴は、目の下にある涙ラインなんです。その孤独は忘れないようにしようと思っています」
早瀬さんは石ノ森からなにかを具体的にアドバイスされた経験はない。原稿の修正を受けても、石ノ森から言われるのは「もっとらしく描け」ということだけ。独学で技術を習得した天才・石ノ森にとっては、描けない理由がわからなかったのかもしれない。それでも早瀬さんは「いまだに先生にいろいろ教えてもらっているし、いまもなお先生のアシスタントだと思っている」と言う。
石ノ森が仮面ライダーで示した創作精神は、現在でも多くのクリエイターたちに影響を与え、脈々と受け継がれている。
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