1976年に生まれ、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動を続けるアーティストの松山智一。東洋と西洋、古代と現代、具象と抽象といった両極の要素を取り込み、ペインティングを中心に彫刻やインスタレーションを手がける松山は、世界各地のギャラリーや美術館などにて展覧会を多く開催。またロサンゼルス・カウンティ美術館やドバイ首長国の王室コレクションなどに作品が収蔵されている。そして2020年にはJR新宿東口駅前広場のアートスペースを監修し、約7mにも及ぶシンボリックな巨大彫刻を制作したほか、NHK「日曜美術館」(2021年)にて特集が組まれるなどして話題を集めた。
その松山が友人でシカゴ出身のカルロス・ロロンとともにキュレーションを行なっているのが、東京・六本木のKOTARO NUKAGAにて開催中の「ながくとも四十に足らぬほどにて死なんこそめやすかるべけれ(Die Young, Stay Pretty)」だ。この『徒然草』の第七段より引用された長いタイトルの所以とは…?現代訳にして「死ぬことがないならば、⼈⽣の深い感動は⽣まれてくるはずもない。やはり、⼈間の命ははかないほうが断然いい。」を意味していて、そこで詠まれる無常観はアーティストの表現行為と相通ずるだけでなく、⽇本の美学に通底する概念でもあるという。松山は当初、タイトルを「リフレクション」と考えていたが、ロロンとのコミュニケーションを重ねさらに深化させて名付けられた。
展示に参加したのは国際的に活躍する9名。いずれも自らのルーツや社会などに問題意識を持ち、「いま」を捉えようとしているアーティストばかりだ。マリリン・ミンターは、白人男性の主流の美術史の中、性の対象としての女性を1980年代に女性として表現したアーティスト。今回はレディー・ガガをモチーフとした一見ファッショナブルな写真を出展している。また数年前まで画商だった異色の経歴を持つジョエル・メスラーは、私的なイメージと独自のカリグラフを組み合わせた作品を公開し、かつてアルコール依存にありながらも、そこから脱却しアーティストとして輝こうとするメッセージを発信している。このほか、日常のオブジェを擬人化して彫刻の概念を拡張するエルヴィン・ヴルムや、マリファナといった素材を口や耳にコラージュして写すフーマ・ババの作品なども見どころだ。
松山智一の『Home Salvation Toner』には多様な要素が引用されている。古典絵画、カルチャー誌、伝統的文様、消費される日用品など実際には混交することのない文化記号が現代と過去、美と醜、洋の東西を超え一つの世界に再構築されている。展示に際して「アーティストは世代の声であるべき。」とし、「既視感がなく、新しいものを作っているアーティストを集めた。」と語った松山。ジャンルの異なる作品同士が共鳴しつつ、新たにアートのケミストリーが生まれる光景をKOTARO NUKAGAにて体感したい。
『ながくとも四十に足らぬほどにて死なんこそめやすかるべけれ(Die Young, Stay Pretty) 』
開催期間:2023年3月9日(木)~4月28日(金)
開催場所:KOTARO NUKAGA 六本木
東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F
TEL:03-6721-1180
開館時間:11時~18時
休館日:日、月、祝
入場無料
https://kotaronukaga.com