映画『大阪古着日和』は、ある人物の古着愛と笑い声でできている。ある人物とはもちろん、お笑いコンビ「さらば青春の光」(以下さらば)の森田哲矢さんだ。
記憶をたぐりよせれば、映画への道のりの一歩目は、さらばのYouTubeチャンネルだった。そこに上がっていたコントの動画に釘付けになり、ほどなく僕はさらばの虜になったわけだが、いつの頃からか画面に映る森田さんの(私)服が気になりはじめた。いつも着ているのは古着?とりわけスウェットがいい感じ、と。選ぶアイテムやその着こなしから推察するに、ややこしいタイプの古着好きではなさそうに感じた。語り過ぎず、それでいて十分に伝わってくる古着への愛着。森田さんの古着に対する距離感、みたいなものが好きだった。
さらばのチャンネルを好んで見る理由はほかにもあった。森田さんの笑い声だ。森田さんはとにかくよく笑う。森田さんが笑っているのを聞いていると、こちらまで楽しくなる。その笑い声は次なる笑いへの呼び水にもなっている。
そんなわけで、当時『東京古着日和』の第6話を制作していた僕は、そのタイトルを「さらば青春の、古着屋めぐり」とした。ある意味、森田さんへの出演依頼的なラブコールだった。そこからはあれよあれよという間に映画化が決定した(事の顛末はYouTube〈五反田ガレージ〉「【大阪古着日和】映画初主演をサプライズ発表!!」をぜひ)。
クランクインは2022年1月3日。多忙を極める森田さんの正月休みを返上してもらった。『東京古着日和』と同様、怒涛のごとく撮影が進む現場だったけれど、全撮影を通じて現場のスタッフが最も沸いたのは、やはり森田さんと光石さんが画面に揃ったシーンだろう。そこにはアドリブ全開でかっ飛ぶ光石さんがいた。そしてその光石さんにぴたりと並走する森田さんがいた。まるでテールトゥノーズ。そんな掛け合いは見事と言うほかなく、この作品の見どころのひとつとなった。
映画の編集をしながら気づいたのは、芝居とはいえ森田さんが相手の話をよく聞くことだった。会話中、絶妙な間で合いの手を入れ、相手のセリフをしっかり聞き終えたのち、しかるべきタイミングで自分のセリフを語る。誰と対峙しても“息がぴったり”になるのは、ある種の森田マジックだと思う。相手に寄り添いながら刻む会話のリズムには、独特な緩急があり、聞いていて心地いい。それが役者のリズムなのか、はたまた芸人のリズムなのか、僕にはわからないけれど、YouTubeでも、テレビのお笑い番組でも、単独ライブでも見られない森田さんが映画の中にはいるので、何卒、どでかいスクリーンで森田さんをご鑑賞ください。
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語り合うふたりが極上のエンターテインメント
出会ったばかりなのにこんなにも通じる!?共通の“好きなもの(=古着)”で会話が盛り上がる。そんな古着好きの様子を追いかけた3日間のストーリー。主役の哲矢は実在のお笑いコンビ「さらば青春の光」森田哲矢であり、架空の哲矢でもある。大阪の片隅で古着と恋と仕事の狭間でゆれ動く、芸人の姿をコメディタッチで描いた物語。4月21日より渋谷ホワイトシネクイント、シネ・リーブル梅田ほかにて順次全国公開。
公式サイト: https://osakavintagediary.com/
公式Twitter:https://twitter.com/TYOvintagediary
公式Instagram:https://www.instagram.com/furugibiyori/
谷山武士
山口県生まれ。ドキュメンタリーからドラマ、ファッションから食と、ジャンルを横断して活躍。映像作品に『東京古着日和』、著書に『パイナップルぷるぷる本』『くるま』などがある。二玄社にて雑誌『NAVI』編集記者、雑誌『助六』編集長を経て、2008年に株式会社ブエノ(TT BOOKS & FILMS)を設立。現在は映像制作を中心に活動。雑誌や書籍の編集者出身という映像作家としては異色の経歴の持ち主。