2022年、アメリカが世界に誇るラグジュアリー自動車ブランド、キャデラックが120周年を迎えた。革新的なデザインと技術、そしてその挑戦の近代史をコンテンポラリーアートとともに振り返り、未来への試みも紹介。全6回の連載5回目は、1980年代に彗星のように現れ たアーティスト、キース・ヘリングの後編。監修の山本浩貴さんとともに、世界で唯一、ヘリング作品を中心に集めた山梨県北杜市の「中村キース・ヘリング美術館」に、最新モデルのキャデラックXT6で向かった。
欧米では珍しくない、個人運営の美術館
都心から中央道を経由して約2時間の道のりは、キャデラックXT6のゆったりとした乗り心地とパワフルな動力性能のおかげで、あっという間だった。八ヶ岳に位置する中村キース・ヘリング美術館は、ヘリングの作品に魅せられた中村和男さんが2007年に設立した個人美術館だ。
「ヘリングの作品が放つメッセージを体感できる空間に」という意図で美術館を設計したのは、国際的なアワードをいくつも受賞している建築家の北川原温。本連載の監修を務める山本浩貴さんとともに館内を巡り、キース・ヘリングの作品を観賞した。
山本浩貴
千葉県生まれ。一橋大学卒業後、ロンドン芸術大学にて修士号・博士号取得。2013年から18年にロンドン芸術大学TrAIN 研究センター博士研究員。韓国・光州のアジアカルチャーセンター研究員、香港理工大学ポストドクトラル・フェロー、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科助教を経て、2021年より金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科芸術学専攻講師。
山本さんによれば、「個人の方が運営する美術館は、欧米ではよくあるスタイルです」とのことだった。
「欧米のコレクターは、公共性というものをとても大事にします。もちろん、時には“この絵は自宅の寝室に飾っておきたいな”ということもあるでしょうが、自分だけでコレクションを楽しむのではなく、より多くの人に文化的価値を開くために個人で美術館を運営している。日本ではこれからだと思いますが、その先がけとしてこの美術館を15年も続けているのはすごいことだと思います」
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ヘリングの作品が現代でも意味をもつ理由
館内をゆっくりと歩き、立ち止まったり、一度観た作品の場所に引き返したりしながら、山本さんはヘリングの作品と向き合う。そしておもむろに、「すごく面白いと思います」という感想を口にした。
「キース・ヘリングの場合、ポップアートのアイコンというイメージがあります。ポップアートというと、どうしても非政治的だと思われがちだけれど、こうして見ると政治的だったり社会的な問題意識を表現した作品が多い。興味深いのは、エイズや人種の問題をメタフォリカルに描いている点です。比喩を用いて寓話的に描いているから、エイズの問題を描いた作品が、コロナ禍の現代で改めて意味をもつ。多様な読み方ができることと、社会的な意識をもったアーティストだということはもっと知られたほうがいいと思うし、学術的にも研究すべきものがここに詰まっていると感じました」
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だれもが楽しめる、間口の広い美術館
薄暗い通路を抜けると、パッと明るく開放的な雰囲気の部屋に出る。「Room of Hope(希望の展示室)」と呼ばれるこの部屋で、山本さんは「こういう立体の作品が観られることも、この美術館の特徴です」と語った。
「Tシャツなどのイメージが強いので、キース・ヘリングというと平面の作品を思い浮かべる方が多いかもしれません。31年という短い生涯でありながらヘリングは多作だし、作品も多様だということがよくわかります」
そして山本さんは、希望の展示室の床に傾斜がついていることを指摘した。
「リラックスできる空間になっていますが、床に傾斜がついていたり、展示室ごとに明暗の差があったり、常に観る人に刺激を与えて、頭を休ませないようにつくられています。頭と身体を働かせながら、ヘリングのメッセージを受け取るという設計もユニークです」
隅々まで館内を見学してから、山本さんは中村キース・ヘリング美術館の印象を次のようにまとめた。
「これは僕も抱えている問題ですが、現代アートってすごく難しくて、一部のエリートとか前提となる知識のある人のためのものだというイメージがあります。でも実はそんなことはなくて、多様な楽しみ方ができる。そういう意味で、この美術館にはいろいろな楽しみ方があって、単純にグラフィックを観るだけでもいいし、建築を体感することもできるし、ヘリングのメッセージ性を理解することもできる。老若男女が楽しめる、間口の広い美術館だと思います」
キース・ヘリング(1958〜90年)
1958年にアメリカのペンシルベニア州に生まれる。78年にニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツに入学。80年より、ニューヨークの地下鉄駅構内の使われていない広告板にチョークで描くサブウェイ・ドローイングの活動を開始し、評判となる。以後、国際的な展示会に出展するほか、社会貢献活動にも力を入れ、87年には「アート・アゲインスト・エイズ」に作品を出品した。88年にエイズの診断を受けると、翌89年にキース・ヘリング財団を立ち上げ、エイズ患者の救済やエイズの予防に携わった。90年、グリニッジ・ヴィレッジのアパートで亡くなった。
All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection
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キャデラックは、アートとサイエンスでできている
我々を都内からキース・ヘリング美術館までエスコートしてくれたのは、最新のキャデラックXT6。3列シートを備え、乗車定員6名というレイアウトを採るプレミアムSUVだ。瀟洒なインテリアに囲まれ、やわらかくてスムーズな手触りのレザーシートに収まった山本さんが、「実はペーパードライバーなので、今回は運転をご遠慮しました」と切り出した。
「助手席に座っていても、静かで乗り心地が滑らかなことはよくわかります。全然、がたがたしません。僕は乗り物酔いがひどくて、クルマでの移動も苦手なんですが、今回はまったく平気で自分でも驚いています。おそらく、揺れずに走るからだと思います。まるで、普段生活している空間が、そのまま移動しているかのように感じました」
山本さんが感心した乗り心地は、路面状況や運転スタイルに応じて瞬時に足まわりの設定を整える最新のサスペンションシステムによるものだ。
また、キャデラックは伝統的に、レザーやウッドに本物の素材を使っている。ウッドに見える樹脂や、金属に見えるメッキなどの偽物は一切使っていない。
「なるほど、上等な家具に囲まれて、部屋が移動しているかのように感じた理由がわかりました。助手席に座っていると、初心者講習に通って、自分で運転したくなりますね(笑)」
今も昔もキャデラックは、最新のテクノロジーと、アートを感じさせるセンスでプレミアムを表現してきたブランドだ。山本さんのような方が、日本各地の美術館を巡るのに、ふさわしいクルマかもしれない。