グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。
この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。
平面、立体、映像……。メディアを横断する「SUN」プロジェクト
YOSHIROTTEN ちょっと前の話になるんですが、1月5日から深夜の2時間だけ、渋谷MODIのハイビジョンで、僕の作品「SUN」をゲリラ上映するっていうのがあったんですけど。じつは追加上映が決まって現在も上映中です。
——はい、見ました!
NORI 当初は1週間の期間限定上映でした。この連載の最初の方でも「SUN」の話をちょっとしてたりとか、あと前回の記事の「MUTEK」で初披露したオーディオビジュアルセットでも、ヨシローくんの過去10年間作ってきたものを、色々なテクニックとか方法でああいうライブセットっていう形で表現をしたんですけど、最後のシーンはやっぱり「SUN」のシリーズだったんですよね。スケールの大きい、メディアを横断して表現されていく作品シリーズだったっていうことが、僕も段々と実感を伴ってわかってきて。
YOSHIROTTEN 僕自身もだんだん実感が伴ってきたというか。やりながら試したり、感じながらやってる行き先自由なプロジェクトです。
元々はというと、2020年のコロナ禍に、ずっと毎日何かを作ろうと決意をして、本当に日めくりカレンダーのように、1日1作品みたいなことをシリーズとして描き出したのが、「SUN」ていう作品になるんですけど。
これをどうやって公開していこうかっていうときに、まずコロナ禍で作品を制作中に、ずっと続けていったら365個毎日の太陽、「SUN」を描いていくことになるなと実感して。その世界観を表現するのは、ただこの平面的なものだけではなくて、いろんなところで「SUN」が現れるようなイメージが湧いたんですね。
2022年の春に、レインボーディスコクラブに誘われたとき、ちょっと1回これを外に出してみようかなって思ったのが最初です。そこから作品が、この連載にも登場した山梨にある巨大アートスペースの「GASBON METABOLISM」に収蔵されました。2メーターくらいある、モノリス状の大きな立体彫刻的な作品としての「SUN」の展示です。
YOSHIROTTEN 次のプロジェクトの中で「SUN」が登場したのは、昨年末の「MUTEK」。その中で自分の作品シリーズを、ダイジェスト的に見せるようなライブをしたんですけど、その一番最後に出てきたのが「SUN」でした。
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YOSHIROTTEN 年が明けて、今年の1月5日から、NEO SHIBUYA TVさんの協力で渋谷のMODIの大型ビジョンを使って深夜の0時から夜中の2時まで、2時間かけて、365個の「SUN」を上映しています。
NORI あれは2時間でワンループだったんですか?
YOSHIROTTEN いや、20分でワンループにしてました。「SUN」は今後もいろんな展開をしていく予定で、3月21日の春分の日(太陽の日)についに全貌が公開されます。楽しみにしててください!
——「SUN」のプロジェクトは、今後もゲリラ的に行われるんですか?
YOSHIROTTEN そうですね、このプロジェクト自体がゲリラ的に現れていくっていうような表現の作品にしたくて。しかもそれをマルチメディアっていうかいろんな媒体とかいろんな場所、デジタルの中にもあれば、フィジカルとして現れたり。いろんなところに突如現れてくるようなものとして展開していく。いまはまだ、序盤の序盤って感じになります。
NORI 今回の「SUN」を見に行ったときに、道行く人々が、目を取られているような光景が散見されて。あれはすごくいい光景だったな。
YOSHIROTTEN これもひとつのパブリックアートになったらなと思っています。深夜だから商業施設の電気とかも、ほとんど消えた状態で、それも狙ってたんですけど、映像の色が変わると道路に「SUN」の光がすごく反射して、街の色を変えるというか、街を染めていくようなことができたかなと思います。
NORI ヨシローくんの音楽的な表現みたいな、ロジックっていうよりは感覚的にズドンと何かを感じさせるみたいな意味では、あの場所であのスケール感で、深夜だからもちろん人は少ないけど、「アートが好きで」とか「YOSHIROTTENのファンで」とか、そうじゃない人たちにもアプローチすることが、序盤の序盤でできたと思いました。多分、自分たちがその場にいない時間帯にも、いろいろ起きているんだろうなと想像ができたなっていう。
YOSHIROTTEN おまわりさんもチャリで、そのあたりを巡回してたんですけど、ちょうど僕たちが見てるときに、おまわりさんが「なんだこれ?」ってちょっと止まって見ていてよかった。
今回、「SUN」の上映が、1月5日からスタートだったんですけど、僕、正月から7日まで九州にいたんですよ。久しぶりに正月を、地元の九州で過ごしたんですけど。今回、帰ったときの目的の一つなんですけど、“太陽の神様”にちょっと挨拶しに行ったんですよ。
幣立神社っていうところで、前にも行ったことがあるんですけど。行った日は天気が悪かったんですけど、「太陽を浴びたいな」と思っていたら急に太陽がでてきてすごかったです。で、東京に帰ってきてそのまま「SUN」の「SUN」のハイビジョン上映だったんですよね。
——なにか繋がっている感じがありますね。九州は年始から帰ってたんですか?
YOSHIROTTEN そうです。今回、鹿児島、熊本、福岡と色々なおもしろいところを回って、新しく訪れた場所の自然を感じた、いい年始でした。
NORI 「SUN」にも繋がってくるのかなと思うんですけど、ここ最近、ヨシローくんのなかで強くなってきているように見える、自然への興味。そういうものに対して、自分の中でなにか考えだったり興味の背景だったりがあったりするんですか?
YOSHIROTTEN そうですね。「Future Nature」をやったときからそうなんだけど、今作っていっているものたちが、どんどん進んでいけばいくほど、ずっと前にあった自然とか文明に、逆に近づいていくような感覚になることがあって。
空や海のような、こんなに美しく大きなものはないし、毎日太陽が上がってきて、僕らが自然に生かされているとか。植物たちから出てくる酸素を呼吸しているとか。なんかシンプルにそれが尊い。
Web3とかの時代になってきて、もっともっとAIが進化して、「地球自体を作れます」みたいになったり。そもそももう僕ら自体がシュミレーション仮設的な、全部プログラミングでできた世界の中にただただいるだけっていう世界が、本当にあるのかもしれないって思うことがたまにあるんです。
早くそこに気づいたりした人とかが、今また“自然”に戻っていて、なにかかき立てられて行動を起こしてるんじゃないか、とか。考えてしまうことがあります。
——なるほど。
YOSIHROTTEN 日本の神道とかの“八百万の神”みたいな考え方って、やっぱり自然のものたちっていうところに一番エネルギーを感じるからこそだし、自然と共存していたからこそ出てきた思想だったんだと思います。
いわゆるスピリチュアルっていうのとも、ちょっとまた違って、当たり前のことっていうか、単純に地球っていう素晴らしい世界に思いを馳せてます。
そんなふうに常日頃から考えていたことが、ピタッときた瞬間があって。じつはそこから「SUN」という作品が生まれてるんですよね。
NORI ピタッと来たっていうのは、コロナ禍でちょっと鬱屈とした毎日で、何か作らなきゃなって思っていたことも関係ありますか?
YOSHIROTTEN タイミング的にはそうですね。世の中がストップしてしまったあのタイミングの時に、ものすごく何かを作らなきゃっていう意識が強くなった。
自分は元々、宇宙とかSF的なこととか、そういったものに興味があって、頭の中に湧き出てくるイメージを形にしていくことにワクワクしてたんだけど。
「Future Nature」の時に、モチーフとしたもののベースが、やっぱり自然界のものだったんですよ。地球にもともとあったものを、新たな角度で見せていくっていうことに、興味を感じたというか。CGで作ったありえないものじゃなくて、モチーフとしては自然に生えている草だったり石だったり土だったり水だったり。そういったものたちが、別な光を通して見ると、こういうものたちも存在するんじゃないかっていう、イマジネーションワールドを展開していきました。
YOSIHROTTEN それは僕の想像だけの物語だけじゃなくって、本当にそういう、違う光を通してみると、「ここになかったものがある」っていうのは言われていて。
ちょっと変な話かもしれないけど、次元が違うだけで、僕の作品のなかに存在するいろんなものたちは実在するかもしれないし、地球の景色だって(普段目にしてる景色ではなく)、じつはこんなふうに見えるんじゃないんじゃないかとか。
じゃあ実際にその景色をどう見せるのか?となると難しいけど、今始まろうとしているメタバースの世界なら色々できてくるかもしれませんね。
地球のなかには、シルバーの鉄の海が広がっているっていう話があって。僕がいつも普段使ってる、光が反射する素材たちで覆われている世界があって、その真ん中に、もう1個の太陽があるんじゃないか、と。
「SUN」は地球のコアにあるもう一つの太陽、というイメージなんです。様々な色を受けて変わっていくシルバーの太陽。
NORI この「SUN」って、シルバーの太陽なんですよね。それはMUTEKのライブのときに、ちゃんと見れたなって。この色は、反射なんだなということが、ちゃんと分かりました。
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YOSIHROTTEN これは幼少期から続いてる、空想という毎日の習慣によって生まれた物語なので簡単に説明するのが難しいんですが。
NORI たとえば山があって太陽があるけど、この光が普通の光じゃなくて、ピンクの光だったらどんな影がどう出るんだろうみたいなこと考えちゃうっていう感じですかね。“もしもの世界”っていうか。
YOSIHROTTEN もしもの世界をやってるだけかもしれないけど。だから作品をつくるときに衝動的っていうのは、そういうことかもしれないですね。
NORI シンプルに想像力というか、もしも太陽が今の太陽じゃなくて、赤かったらどんなふうに見えるんだろうとか、ただの森だけでも今これだけ美しいけど、今この木がいっぱいあって草も生い茂っていて、小川が流れていてっていう場所に、ピンク色の玉がポンと出てきてそれが発光したらどう見えるだろうみたいな
YOSIHROTTEN うん。小さい頃のことですごい覚えてるのが、山を見てて「緑ばっかりでつまんないから、全部ピンクだったらいいのになあ」って思ってて。でも一周して、「すごいなこの緑」ってなるんだけど(笑)
NORI 「こうじゃなかったら、どうなんだろう」みたいなことって、美術作品のひとつの方向性としてはそういうことだと思うな。
YOSIHROTTEN ただ、自分が「こんな世界はいかがでしょうか?」で終わらせても意味ないから、そこで伝えたいメッセージとしては「決して見えているものがすべてじゃない」っていうこと。自分がつくった作品によって、そのメッセージが伝われば、人に何か新しい行動を生むんじゃないかなって。
日常を当たり前に過ごすだけではなく、なんでも自由にできるし、なんにだってなれるっていうようなところがメッセージでもあります。これは僕がPUNKで教わったセオリーでもあります。
——「SUN」はそういうメッセージが色濃く出ている作品ですか?
YOSIHROTTEN はい。そういったメッセージの、一番コアな部分の象徴的な存在なのかな。
NORI ヨシローくんがこの10年間に作ってきたものを見てきて、やっぱりどんどんそぎ落とされていっていて、「SUN」はそれですごく到達したひとつのポイントなのかなと。円とグラデーションだけじゃないですか。
YOSHIROTTEN そうですね。でっかい太陽でもあり素粒子でもあり、魂でもある1つの点です。
NORI もし地球の中にもう1個太陽があって、それがシルバーだったらっていうシンプルさ。多分10年前じゃできなかったんじゃないかと思います。ヨシローくんのキャリアとしてもできなかったと思うし、世の中としてもそこまで追いついてない。今だったらデジタルやフィジカルの媒体を横断して、そういう世界観を作り上げていくことができるんじゃないかなって、話聞いてて思いました。
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——ヨシローさんは昔から山だったり植物だったり、自然界のモチーフに興味があったんですか?
YOSHIROTTEN なんかね、昔は近すぎて、ちゃんと気づいてなかったかもしれないですね。わりと大自然の中で育ったんで当たり前だった。
NORI モチーフとしては出てきてなかったですよね。
YOSHIROTTEN ていうのはね、東京に出てきた10代後半から、アートも音楽も目新しい物をずっと追いかけていた。もちろん今もそれはあるんだけど。少し変化が起きてて、すごいミュージシャンが現れて、めちゃくちゃやばい曲が今出てきたっていっても、そこまで興奮するのかなって思うようになってて。それよりは「見たことない石、出てきた!」とか、「すごい成長をしてしまった」っていう植物を見たときの方が、興奮するようになってるっていうのはあるかも(笑)。
でも幼いころは自然と対話して遊んでましたし、今では生まれた自然環境に感謝しています。
——NORIさんはそういうヨシローさんの変化をどういうふうに見てましたか?
NORI 振り返ってみると、モチーフは10年前と比べると、変わったのは明白ですね。もっとパンクとか色んなサブカルチャーの記号的なものとか、そういうものの方が昔は多かったんですよ。付き合いが長すぎて、明確な時期はわからないですけど、「Future Nature」の前ぐらいからそれは段々変わってきてるなって。
——話は変わりますが、先日行われた、NORIさんがディレクターとして参加された大規模アートイベント「EASTEAST_TOKYO 2023」。ヨシローさんの「RGB」シリーズの新作が、まったく想像してなかった新しい表現方法で、度肝を抜かれました(笑)。
YOSHIROTTEN “RGB原体験”っていうのに基づいた、アップデート版「RGB Machine」です。
——その話は次回、詳しく教えてください!
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グラフィックアーティスト、アートディレクター
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR