1986年に生まれ、新進気鋭のキューバ人アーティスト、マベル ポブレットは、写真やミクストメディア、またキネティックアートといったさまざまな手法を用いて制作を行い、世界の主要な芸術祭に参加するなどして活動してきた。ポブレットはフィデル カストロ政権下のキューバで育った世代のアイデンティティや、世界とのつながりといった自身の経験を基づいて表現を展開していて、作品を通してキューバ社会と今日の世界の問題を浮かび上がらせている。
東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催中の『WHERE OCEANS MEET マベル ポブレット展』では、ポブレットが心に抱き続けてきた水、そしてキューバを囲む海を中心に、キューバ社会ではごく身近の現象である移民をテーマとした作品を展示している。そのうち『NON-DUALITY』は移民を素材とした「Homeland」シリーズのうちのひとつで、青いキャンバスの上にはプラスチックで作られた何百もの小さな花々が空間を埋めるようにピン留めされている。これは海に捧げる供物でありつつ、危険な航海の途中で命を落とした人々を追悼する花輪のようにも見える。
一方で同じ「Homeland」シリーズの『ISLAS』とは、作品の中へ入ることのできる没入型のインスタレーションだ。鏡面に囲まれた空間には無数の小さな鏡と海の写真の断片が糸で吊るされていて、あたかも水の中をかき分けて海の奥底へと誘われるような体験を得ることができる。このほか自身の旅の写真を用いて制作され、7つの円形作品で構成された「Travel Diary」や、存在のはかなさを表現し、ピラミッド状の折り紙でできた「My Autumn」の各シリーズなども展示され、繊細でかつ詩情を感じさせるポブレットの作品世界を味わえる。展示室の中へ鏡面を大胆に取り込むことで、作品同士が映り込みながら響き合うような構成も魅力だ。
「海は架け橋のように人をつなぎ、また引き離す。そして平和と共に敵対を引き起こす。」と語るポブレット。あくまでも作品は美しく、そこに政治的な意図は明らかにされていない。しかし鏡や海のイメージの断片を用い、移民たちの砕かれた人生を寓話的に表現しているように、自然や生命、そして移民をはじめとするキューバの人々へのオマージュを垣間見ることができる。展示はシャネル・ネクサス・ホールの会期を終えると、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」にも巡回が予定されている。「第52回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」(2017年)に作品を展示して話題を集め、すでに各国で20以上個展を開いたポブレットの作品のもつ意味を、世界の「分断」が叫ばれるいまだからこそ考えたい。
『WHERE OCEANS MEET マベル ポブレット展』
開催期間:2023年3月1日(水)~4月2日(日)
開催場所:シャネル・ネクサス・ホール
中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
TEL:03-6386-3071
開館時間:11時~19時 ※入場は閉館30分前まで
無休、入場無料
https://nexushall.chanel.com