【小山薫堂の湯道百選】第七八回“湯は、静謐を湛える。”

  • 写真:杉本 圭
  • 文:小山薫堂
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〈京都府京都市〉
HOTEL THE MITSUI KYOTO

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地下鉄東西線「二条城前」駅から徒歩3分。二条城を望む三井家ゆかりの地に2020年11月に誕生した最上級ラグジュアリーホテル。 

京都には、日本を世界に発信する力がある。芸術、芸能、工芸、料理……あらゆる日本文化が京都という街を媒介にして世界の観光客に届けられる。

もし、日本の風呂文化をより広く世界に発信するならば、ここが最もふさわしい場所だと思った。「HOTEL THE MITSUI KYOTO」のサーマルスプリングSPAである。京都には素晴らしい水脈があるが、なんとここは天然温泉。敷地内の地下1000mから湧き出すナトリウム・カルシウム|塩化物泉が、プールの如き巨大な浴槽に注がれる。源泉名は京都二条温泉。浴槽は2つに区切られており、38℃と39℃というぬるめの設定になっているのが長湯好きにはうれしい。

混浴なので水着を着用し、湯に浸かる。この空間のテーマは「静謐(せいひつ)を湛える」。実にうまい表現だ。そう、世界の富裕層はきっとこういう世界観を切望しているに違いない。体温に近いやわらかな湯にゆっくりと身体を沈めると、自然と坐禅を組みたくなった。仄かな灯りが巨大な天然石を照らしている。洞窟で瞑想するように、すべてを無にしてこの気配に身を任せると……穏やかな時間が自分の中に流れ込み、押し出された心のざわめきが湯に溶けてゆく気がした。15分に一度、天井から流れ落ちるシャワーカーテンの水音が静寂を破る。これはまさに、坐禅における警策(けいさく)のようなものだ。

この日、気がつけば、1時間以上も湯に浸かっていた。湯上がりの清々しさこそ、この温泉の最大の効能かもしれない。

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エントランスは、300年以上の歴史をもつ三井家ゆかりの「梶井宮門」を修復再現。

 

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サーマルスプリングへと続く回廊。他に、SPAトリートメント、貸切プライベート温泉、ジムなどがある。

HOTEL THE MITSUI KYOTO

住所:京都府京都市中京区油小路通二条下る二条油小路町284
TEL:075-468-3100
料金:¥113,850~(1泊一室料金)
www.hotelthemitsui.com

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※この記事はPen 2023年4月号より再編集した記事です。