イギリスで発見されたミイラ化遺体の謎 家族は「生きている」と信じていた

  • 文:宮田華子
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ヤスタケ・リナさん。@BBCLookNorth – Twitterのキャプチャ画像

2018年9月、イギリス、ノースヨークシャー(イングランド)にある小さな町で、一人の女性(49歳)の遺体が発見された。死亡したのは約20年にわたりこの町に住んでいた日本人。発見時、遺体はミイラ化した状態だった。

警察は同居していた3人の遺族(日本人)に事情を聞き、その上で死体遺棄(適法かつ適切な埋葬を妨げた罪)の容疑で起訴した。

遠い異国、しかも家族と同居していたはずの女性がなぜミイラ化? 謎の多いこの事件は発覚当時日本でも報道された。

その後捜査と裁判が続いていたが、詳しい背景は不明だった。しかし今年1月、突然BBCをはじめとする各メディアがこの事件の顛末を報道。大きな話題となった。というのも、この事件には奇妙な点が多く、かつ世を震撼させるに十分な内容だったからだ…。

今年1月13~14日にかけて、多数のメディアがこの事件について報じた。

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家族は「リナは生きている」と信じていた

2018年9月25日、ノース・ヨークシャー州ヘルムスリーにある薬局が「頻繁に大量の消毒用アルコールを買いに来る男女がいる」「2人から死臭がする」と警察当局に通報した。

通報を受け、救命救急士が2人の家に向かった。そこで寝室の床に敷かれたマットレスの上に横たわったヤスタケ・リナさん(当時49歳、日本人)を発見した。救命救急士は彼女の死亡を確認することはできたが、死亡日は特定できなかった。

なぜなら遺体はすでにミイラ化していたからである。

リナさんは姉(当時52歳)、弟(当時47歳)、母(当時75~76歳)と共に4人暮らしだった。姉と弟によるとリナさんは同年4月頃から飲食をあまりしなくなり、徐々に衰弱していった。しかし家族は「(リナさんは)霊的な糧に満たされている(ので大丈夫)」と信じ、「病院に行ったら何か(悪いことが)起こるかも」と恐れていた。家族で面倒を見ていたが、8月18日からは無反応になったと警察に話している。

家族の証言が正しければ「無反応になった」と家族が認識してから遺体発見まで1カ月以上ある。病理医が検死をおこなったものの、死亡原因を特定できないほど遺体は死後変化していた。

しかしそれでも家族はリナさんが「生きている」と信じ、死後も同居を続けていたのだった。

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社会との接点なし…「独自の方言」で会話の謎

警察は母・姉・弟の3人を死体遺棄(合法的な埋葬を妨げた罪)で起訴された。ヨーク・クラウン・コート(刑事裁判所)での審理が進むにつれ、ヤスタケ一家の生活が少しずつ明らかになっていった。

裁判が行われたヨーク・クラウン・コートの外観。

一家4人がイギリスに渡ったのは、母がイギリス人と結婚したことがきっかけだった。渡英時期は不明だが、リナさんは学業優秀な学生だった。私立高校で学んだあと、奨学金を得てケンブリッジ大学に進学。古典と言語学を学んだ。

しかしその後フルタイムで働いた形跡はない。一家はノースヨークシャー州ナニントンで暮らした後、約20年前にヘルムスリーに転居した。地元紙Yorkshire Postによると、父(母の夫を指すのか、また実父なのか不明)の死去後にリナさんに異変が起こりはじめた。2013年には(精神面で)攻撃的な症状が見られ、地元の家庭医を受診。カウンセリングを受けているが、以後は医療機関に通っていない。

古い町並みが残るヘルムスリー。

検察は遺体発見時、すでに死後約6週間が経過していたとみていた。しかし裁判に出廷した地元警察の刑事二コラ・ホールデンさんの証言によると、母・姉・兄は、リナさんの遺体が発見された時だけでなく、その後数カ月にも渡り、「(遺体発見時)彼女は生きていた」と確信していた。

また捜査の過程で、一家は家族以外とほとんど交流していないことも明らかになった。家にはテレビもラジオもない。家族4人だけ、社会から隔絶し、孤立した生活を送っていたとみられる。

さらに驚く事実も判明した。警察は3人の事情聴衆のために日本語通訳を雇った。しかし一家は通常の日本語とは異なる「独自の方言(Dialect)」を使って会話をしていたため、通訳を介しても意思疎通が難しかった。「(彼らとの)コミュニケーションは困難でした」とホールデンさんは語っている。

遺体から毒物は検出されず、また第三者による危害も発見されなかった。ショーン・モリス裁判官(Recorder, 非常勤裁判官、ヨーク市)は「3人には極めて稀な精神疾患があり、そのことが当刑事裁判に影響を与えている」と発言した。2021年11月、ヤスタケ一家への起訴は取り下げられ、裁判は終了した。

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いまだに謎は多いが…

ヤスタケ一家が社会から距離を置く生活をあえて選んだのか、そうならざるを得なかったのかは分からない。彼らが何を信じて「リナさんは生きている」と思いアルコール消毒を続けていたのか? どんな生活をし、何を糧に暮らしているのか? 知れば知るほど謎が深まる事件だ。しかし裁判が終了した現在、知るすべはない。現在もヤスタケ一家3人は、リナさんの遺体が発見された同じ家に暮らしている。

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【画像】イギリスで発見されたミイラ化遺体の謎 家族は「生きている」と信じていた

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ヤスタケ・リナさん。@BBCLookNorth – Twitterのキャプチャ画像

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今年1月13~14日にかけて、多数のメディアがこの事件について報じた。

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社会との接点なし…「独自の方言」で会話の謎

裁判が行われたヨーク・クラウン・コートの外観。

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古い町並みが残るヘルムスリー。

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