“セーターとはなにか”を問う山形の老舗ファクトリー期待の新作は、意外にもスポーツウエア顔だった

  • 文:小暮昌弘
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Untitled (Our Sweater Ⅳ #86–474), 2022 ©︎ Gottingham Image courtesy of Akaoni and Studio Xxingham

Pen Onlineで私が連載を担当する「大人の名品図鑑」で昨年末から今年にかけて取り上げたのがニット、いわゆるセーターだ。第1回ではイギリスにルーツをもつ「アランセーター」について書いたが、商品として紹介したのがオリジナルのアイルランド製ではなく、日本の山形で編まれたセーターだ。

このセーターを取り上げたのには理由がある。連載のポッドキャストでも詳しく話しているが、2022年の1月か2月頃、東京・原宿のキャットストリートにあるセレクトショップ、ディストリクト・ユナイテッドアローズで一枚のアランセーターに出合った。壁一面にディスプレイされ、見事な編み柄とデザインに見惚れてしまった。アイルランド製かと思いきや、それは山形で編まれたアランセーターだった。ショップの方からいただいた小冊子(同社のHPからダウンロード可能)を読むと、ブランド名はディスイズアセーター(THISISASWEATER.)で、山形県山辺町に本拠地を置くニットメーカーの米富繊維が手がけた製品だった。同社は1952年創業で、初の自社ブランドとして立ち上げたコーヘン(COOHEM)は、高い評価を受け、多くのセレクトショップでも扱われている。そんな米富繊維がアランセーターをつくる時にアドバイスを仰いだのが、静岡県にあるジャック野澤屋の代表取締役野沢弥一郎氏だ。早くからアイルランドから本物のアランセーターを輸入し、アランセーターに関する本まで書いている人物だ。ディスイズアセーターは、“アラン諸島最高のハンドニッター”と称されるモーリン・ニ・ドゥンネルさんが野沢さんのために編んだ“21世紀最高のアランセーター”がもとになっている。米富繊維ではそのセーターを1年間かけて開発、しかもその複雑な編み柄を機械編みで再現していると聞き、気絶するほどに驚いてしまった。

2006年か07年だと思うが、私は野沢さんに会っている。静岡にアランセーターにこだわる店があると聞き、取材に行ったのだ。膨大な数のアランセーターに囲まれた店内でアランセーターに関する野沢氏の知識に圧倒されたことをよく覚えている。そんな縁もあって、アランセーターを取り上げるのならば、ぜひともこのセーターをと、ずっと思っていたのだ。

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第3弾のテーマである日常性を表現したビジュアル。年間を通して着る人の生活すべてのシーンをカバーしてくれるニットウェアだ。

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今月初め、東京で開かれた米富繊維の来シーズン向けの展示会にお邪魔すると、代表取締役の大江健さんと、広報担当の鈴木麻里さんから見せていただいたのが、ディスイズアセーターの第3弾となる新作だ。

第3弾の作品のテーマとなったのは、「A SWETER IS FOR EVERYDAY.(セーターはどんな日にも)」。意外にも新作のニットはヴィンテージスウェットを彷彿させるデザインで、プルオーバー、パーカ、パンツの3型を一挙にリリースしてくれた。素材に採用されているのは、この新作のためにつくられた特別な糸で編まれたもの。この糸は光電子ナイロンをコットンカシミアでカバーリングさせた特殊なもので、着る人の肌に触れるのは天然素材であるコットンカシミアだけというという快適な着心地を備えている。編み地はアメリカ産スーピマコットン56%、内モンゴル産ホワイトカシミア19%、光電子ナイロン25%という絶妙な比率で編まれており、コットンのしなやかな肌触り、カシミアの美しい光沢、光電子ナイロンの遠赤外線テクノロジーによる穏やかな保温性という、それぞれの素材がもつ優れた性能を高次元で融合したものといえるだろう。

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モデル名は「A3: A SWETER IS FOR EVERYDAY.」。コットン56%、カシミア19%、光電子ナイロン25%。ユニセックスサイズで、0、1、2、3、4の展開。色はグレーとネイビー。プルオーバー¥37,400、パーカ¥41,800、パンツ¥41,800/ディスイズアセーター(ヨネトミストア TEL:023-664-8165  https://www.yonetomi.co.jp

スポーティでオーソドックスな佇まいだが、インドアでリラックスウエアとしても着れば、1日中快適に過ごせることは間違いない。パジャマ代わりに着用すれば良質な睡眠を誘ってくれるだろう。あるいはアウトドアでは、スポーツやコンディショニングウエア用としても使える。もちろんファッションアイテムとしても多くのアイテムとコーディネートは可能だ。高機能にして多才、しかも着る人に優しく快適だ。こんなニットならば、掲げられたテーマ同様、1年中ずっと着用できるはずだ。

日本の技術でアイルランドの伝統にチャレンジした前作のアランセーターとはまったく違うベクトルで創造された意欲的な第3弾に、同社の技術力の高さ、発想の柔軟さを強く強く感じた。少し気が早いかもしれないが、第4弾にも大いに期待したい。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。