知られざるジャズ大国から、都会の夜を匂わす好盤登場

  • 文:山澤健治(エディター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『スイート・ナイツ』

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南アフリカ最大の都市ヨハネスブルグを拠点に活動するネオ・ソウル・コレクティブ。20年来の友人であるジャブロ・フェカーニとノア・バムバーガーを中心に、現在は7人のメンバーで構成。世界初CD化されたデビュー作『スイート・ナイツ』は1月11日にリリースされたばかり。 photo: Khwezi Phekani

FIFAワールドカップ・カタール大会におけるモロッコの大躍進を例に出すまでもなく、勢力図はいつも多様性の名のもとに塗り替えられる運命にある。いまやメインストリームに上り詰めたヒップホップやR&Bの世界も例外ではない。昨年最も聴かれたアルバムは、プエルトリコのラッパー/シンガー、バッド・バニーの作品だったし、ナイジェリアのバーナ・ボーイやスペインのロザリアなど、それまではヒップホップ/R&Bの小国と見なされていた国々からも世界的名声を獲得する者が現れた。

南アフリカ共和国のネオ・ソウル・コレクティブ、ザ・チャールズ・ジーン・スイートもそんな多様性の好例だ。南アフリカといえば、ハウスから派生した最新ダンス・ミュージック「アマピアノ」発祥の地であり、知る人ぞ知るジャズの大国。その豊かな土壌で育まれた彼らのデビュー作『スイート・ナイツ』には、ソウルやR&B、ヒップホップ、アフロポップのエッセンスがメロウなサウンドに凝縮されている。

多彩な出自やバックボーンをもつ音楽仲間が主要メンバー、ノア・バムバーガーの家に集まり、真夜中から夜明けにかけて自由にセッションを重ね始めたのは2017年のこと。その後、5年間の音の蓄積が南アフリカの才気あふれる若手シンガー、ラッパーを20名近くゲストとして迎えたデビュー作に結実したわけだが、だからなのか、そのサウンドには都会の夜の息吹や有機的な人のつながりが感じられる。冒頭を飾るメロウなジャズ・ソウル「I Don't Sleep Anymore」以下、スウィート・ソウルやエモーショナルなラップ・チューン、ソウルフルなアフロポップ調R&B、さらには南アフリカ・ジャズの気鋭を集めたインスト曲でも、その印象はゆるがない。人の手が紡いだ、甘美なるスタジオ・セッションの好盤に心躍る。

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ザ・チャールズ・ジーン・スイート パラフェルナーリア・レコーズ PAPH-006 ¥2,530

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※この記事はPen 2023年2月号より再編集した記事です。