「大人の名品図鑑」ブラッド・ピット編 #3
80年代末にデビューし、以来第一線で活躍し続ける映画俳優ブラッド・ピット。美しい顔立ち、大人の色気を感じさせるその演技は“最後のハリウッドスター”と称され、プライベートで身に着けるアイテムは日本のメディアでも話題になるほど、ファッションにも敏感だ。今回は、そんな彼が数々の作品の中で披露した名品にフォーカスを当てる。ポッドキャスト版を聴く(Spotify/Apple)
ブラッド・ピットの数ある出演作の中でもカルト的な人気を誇るのが、99年に公開された『ファイト・クラブ』だ。『ブレット・トレイン』の公開に合わせて彼の特集を組んだ『SCREEN』(近代映画社)の22年10月号では、同誌読者による「ブラッド・ピットの好きな映画ベスト10」という企画を実施、見事第1位に輝いたのが『ファイト・クラブ』だ。「狂気的なブラッド・ピットに色気がある」「ブラピの体がスゴイ!」。彼の印象的な役柄を絶賛する読者からの声が掲載されている。
監督はデヴィッド・フィンチャー。80年代からジョージ・ルーカスがつくったロサンゼルスのスタジオ・ILMでアニメーターとして働いた後、マドンナ、ローリング・ストーンズなどのミュージック・ビデオを手がけ、93年の『エイリアン3』で映画監督デビューを果たした。ブラッド・ピット、モーガン・フリーマンを主役に起用したサスペンス作品『セブン』(95年)が絶賛され、興行的にも成功を納める。同誌で、「『セブン』は完璧な映画」とブラッド・ピットが言ったと書かれているが、同人気投票では『セブン』が第2位を獲得している。ブラッド・ピットとフィンチャー監督はその後も08年に『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』で3度目のタッグを組んでいるので、よほど2人の相性は良いのだろう。
そんなカリスマ的な人気を誇る『ファイト・クラブ』のストーリーを紹介しておこう。自動車会社のリコール調査員を務める「僕」(エドワード・ノートン)。瀟洒なコンドミニアムに住み、カルバン・クラインのシャツ、DKNY(ニューヨークのデザイナー、ダナ・キャランがデザインするブランド)の靴、アルマーニのタイなどを身に着けるといういかにもアメリカのエグゼブティブ風の暮らしを送っていた。しかしここ数ヶ月不眠症に悩まされ、物質的には満たされているのに不安が解消されない。
そんなある日、出会ったのがタイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)と名乗る謎の男。ルックスがよく、自信家のタイラーはすべてにおいて、「僕」とは正反対。そんな彼に戸惑いながらも彼に対して憧れに似た感情を抱くようになる。やがてタイラーと「僕」は、あるルールのもとに男同士が素手で殴り合う「ファイト・クラブ」を結成、殴り合うことに「僕」は生きる意味を見出していく。カリスマ性を徐々に帯びるタイラーはどんどん危険でアナーキーな方向へと「僕」を導いていく。果たしてタイラーの正体とは?
フィンチャーの作品らしく謎のシーンが多くあるので、何度も観たくなるミステリアスな作品だ。未見の方は、ぜひとも最初から通して観ることをおすすめする。
---fadeinPager---
ブラピを彷彿とさせる、ニードルズのトラックパンツ
この作品の衣装を担当したのは『セブン』などでも2人と組んだマイケル・カプラン。某ウェブサイトで彼はタイラーのスタイルについて「とびきりダサい男が考えるクールな男にしたいと考えた」と書かれている。作品の中でタイラーは赤の革ジャンをよく着用、しかもテーラードタイプとバイカージャケットの2種類の革ジャンを着用する。
カプランは「ラストレッド(錆赤)のレザージャケットは古着屋で売っているようなものを一からデザインしてつくりました。革を選び、染めて5着ほどつくりました」と語る。個性溢れる革ジャンに合わせたのが、スポーティなトラックパンツと、アメリカのホッジマンというブランドのフィッシング用のブーツ。タイラーが着た錆赤のジャケットの色が血を連想させ、彼の狂気を表現しているようにも見える。
再度この作品を観ているときに思い浮かべたのが日本のニードルズのコレクションだ。日本のインポートファッションを牽引してきたネペンテスの清水慶三が1995年にスタートしたブランドで、メンズウエアの豊富な知識に裏打ちされた細部へのこだわり、そこからの遊び心や抜け感で唯一無二の存在感を放っている。
映画を見る傍らで、別のモニターを使って2023年春夏の最新のコレクションをチェックしてみたら、雰囲気はタイラーの着こなしに似ている。新作は春夏なので革ジャンはリリースされてないが、今季のコレクションでは偶然にも赤がキーとなるアイテムが数多く登場している。もちろんニードルズの今季のコレクションは、この作品にインスパイアされたものではない。あくまで勝手にこう感じたということなのだが……。
この指摘に対して、ネペンテスのプレス、渡部美穂は次のように語る。
「昔この作品を見たときには、『アメリカンヒストリーX』以後ということもあり、私はエドワード・ノートンに持っていかれた節があります。改めてブラッド・ピットを意識しながら『ファイト・クラブ』を観ましたが、セクシーでいい意味のコミカル具合に惹きつけられました。ブラッド・ピットの着こなしは、着の身着のまま、自分が好む、自分にフィットさせた服を着ている様子やアイテムのチョイス具合がニードルズを選んでいただいだ経緯なのだろうと思いました」
昨今のアスレジャーファッションのブームで多くの人が街着としてトラックパンツをはくようになったが、ニードルズがトラックパンツを展開するようになったのはブームが来るずっと前の2008年から。渡部は「ジーンズに代わりになる新しい定番パンツという位置付けで始まりました」と話す。このスポーティなパンツをニードルズではよくジャケットやアウターなどの街着とコーディネートしたコレクションで提案している。『ファイト・クラブ』でのタイラーのスタイルもまさにそれだ。作品の世界観に浸るとき、欠かせないアイテムではないだろうか。
---fadeinPager---
---fadeinPager---
---fadeinPager---
問い合わせ先/ネペンテス TEL:03-3400-7227
オプティカルテーラー クレイドル青山店 TEL:03-6418-0577
---fadeinPager---
---fadeinPager---
---fadeinPager---
---fadeinPager---
---fadeinPager---