南三陸の海と山をつなぎ、震災の記憶を伝承する「南三陸311メモリアル」【今月の建築ARCHITECTURE FILE #05】

  • 写真:堀越圭晋+中尾孝祐(エスエス東京支店)
  • 文:佐藤季代
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船をイメージした外観。斜めのルーバーは、同じエリアに立つ隈設計の南三陸さんさん商店街と中橋にも使用された地元の南三陸杉。

東日本大震災の津波により壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町。かつて中心市街だった志津川地区では、「海と陸をつなぐ」をテーマに、隈研吾が街のグランドデザインを担当。既に隈がデザインした「南三陸さんさん商店街」と、八幡川に架かる「中橋」がある場所に、昨年10月、「南三陸311メモリアル」が新たに完成した。

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ラーニングシアターでは震災時の住民の証言や映像などを上映。また、防災や減災について考えるためのプログラムを提供している。

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薄暗い空間に無数の古びたブリキ缶が積み重なったインスタレーションは、現代美術家クリスチャン・ボルタンスキーの遺作『メモリアル』。

川を隔てた対岸の震災復興祈念公園と上山八幡宮のある山側を結ぶ“慰霊の道”に面したこの建物は、さまざまな表現で震災の記憶を伝承する施設だ。両隣にはBRT(高速バス)などが発着するJR志津川駅と観光交流施設の二棟がL字型に並び、ダイナミックな大屋根を共有している。

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山側と八幡川を結ぶ慰霊の道に面して、商店と伝承施設が建つ。商店街の軸線を意識し、建物正面に回遊動線となる屋外通路を設けている。

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船をイメージした鋭角的な建築は、棟の間に屋外通路となるふたつの“孔”を配置。この孔から放射状に伸びたルーバーが人々を誘いながら、周辺エリアや山、川をつなぐゲートのような存在となっている。館内は展示ギャラリー、アートゾーン、ラーニングシアター、交流スペースで構成され、2階には展望デッキを設置。現代美術家クリスチャン・ボルタンスキーによる作品も見どころのひとつで、館内をたどりながら自然災害や防災について改めて考え、学ぶことができる。10年余りかけて進められた街づくりの集大成となる建築が、薄れつつある震災の記憶を次世代へとつないでいく。

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船首に見立てた2階の展望デッキからは、中橋が架かる対岸越しに震災遺構の旧防災対策庁舎が残る震災復興祈念公園や志津川湾を望める。 photo: Dummy Dummy

南三陸311メモリアル

住所:宮城県本吉郡南三陸町志津川字五日町200-1
TEL:0226-47-2550
開園時間:9時~17時
旧塩ビ:火
料金:入場無料 ※有料エリアあり。事前予約を推奨
https://m311m.jp
【設計者】隈研吾建築都市設計事務所
代表の隈研吾は、1954年神奈川県生まれ。東京大学大学院建築学科修了。90年、隈研吾建築都市設計事務所設立。2019年に竣工した新国立競技場の設計を担当。紫綬褒章はじめ受賞多数。

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※この記事はPen 2023年3月号より再編集した記事です。