長く続いたスニーカーブームも落ち着きをみせ、そろそろ別の靴、たとえば革靴などを探している人も多いだろう。そんな人におすすめしたい靴がある。イギリス生まれのボードイン アンド ランジ(Baudoin & Lange)というブランドの靴だ。
老舗が多いシューズ業界の中では2016年創業という新興ブランドで、アップル社のクリエイティブ部門出身のアラン・ボードインと、カーレーサーだったこともあるボー・ヴァン・ランジヴェルトの2人が立ち上げた。ブランド名は、もちろん二人の名前が由来だ。
ボードインはアップル社を退社した後、靴職人と出会いシューメイキングを学んだ。初めてデザインした靴は、300年以上の歴史をもち、1950年代にはニューヨークのアートギャラリストや社交界で人気があったと言われる「ベルジャンシューズ」が元になっている。
「私がアランと出会ったころは、まだ片方の靴しか出来上がっていませんでした。試したいから両方ともつくってくれと彼に頼んで、出来上がった靴を履いた瞬間、“これこそ私が求めていた靴だ”と感じました。翌日に会社を辞め、彼の家のドアをノックし、一緒にビジネスを始めようと提案したのです」と創業のきっかけを話すランジヴェルト。
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靴づくりとテック業界の共通点
その靴は天体物理学者カール・セーガンに敬意を払って、モデル名に「サガン(Sagan)」と名付けられた。柔らかな革を用い、誰が履いても足に馴染む靴はまるでビスポークシューズのような出来栄え。まだ1足しか発表していない時期から、ヨーロッパや日本のファッショニスタや靴好きから注目される一足となった。
英国靴と言えば、長い時間をかけて技を習得した職人がつくるものが主流。異業種にいたボードインにとって、靴をデザインし、仕上げることは難しくはなかったのだろうか。
「右脳と左脳、どちらも使わなければならないという点で、靴づくりとテックの世界は似ています。たとえば数学的なことを考えながら、同時にイメージを膨らませ、想像しなければなりません」とボードインは話す。
2人が「ベルジャンシューズ」をブランドのシグネチャーとしたのは理由がある。この靴は当時、市場にないモデルだった。あっても安価で、室内用として履くような簡易なものとしてつくられていた。彼らはそれを外履きとして、抜群の履き心地を持つ靴に進化させた。
「カーフやスエードなど、採用する革のほとんどがイタリアで特注したものです。自分たちが望む繊細な仕立てを求めて、イタリアのマルケ地方に自社工場を建てました」と主にビジネス面を担当するランジヴェルトは話す。
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「紐靴はつくらない」というポリシー
「サガン」も最初はライニング(裏地)がない仕様だったが、踵部分のホールド感を求めてハーフライニングの仕様に。ソール全面にラバーを用いたモデルもあり、より快適になったことで、欧州ではこのモデルが大ヒットしていると聞く。2019年にはロンドンのバーリントンアーケードにショップをオープンし、昨年にはもう一店をチェルシーにオープン。3店目はアメリカ・ニューヨークに開く予定だという。
2023年秋冬の新作展示会では「ベルジャンシューズ」以外にもブーツやスニーカーなどが並んでいる。「瞬時に履けるスリッポンタイプが私たちのつくる靴の基本です。紐靴はつくらない。ブーツは履くときに苦労するでしょう。だから履き口を斜めにして、片手で履けるようにしています。さらにパンツに引っかからないような構造になっているし、くるぶしもあたらない。ベルジャンシューズづくりで得た知見を活かしてデザインしています」と新作について熱弁するランジヴェルト。2人が創る科学と感性を生かした靴の未来は、大きく広がっている気がする。
問い合わせ先/コロネット TEL:03-5216-6521
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