映画『おくりびと』の脚本を手がけた、小山薫堂プロデュース・脚本の『湯道』が2月23日より公開予定だ。Pen最新号「湯道へ、ようこそ」から、主人公の弟、三浦悟朗役を務めた濱田岳のインタビュー記事を抜粋してお送りする。

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 生田斗真さん演じる三浦史朗の弟・悟朗。兄の代わりに亡き父から銭湯「まるきん温泉」を引き継ぎ、店主として切り盛りする人物が濱田岳さんの役どころだ。撮影所に用意された壮大なセットを見たとき、子どもの頃の記憶が蘇ったという。2008年に惜しまれつつも廃業した銭湯「麻布十番温泉」に通った思い出だ。

「小学生時代に、お小遣いを握りしめて友達と銭湯によく行きました。公園で遊んでいると、夕方5時のチャイムで家に帰らなくてはいけない。銭湯は、夜にお出かけできる唯一の口実だったんです」

とはいえ、そこはただ無邪気に楽しめる場所ではなかった。大人にはかわいがってもらう一方、お小言をもらうこともあった。

「番台の人が、まるきん温泉みたいなかわいい女性ではなく、まあまあちゃんとしたおばあさんでした（笑）。たとえば風呂上がりにいつまでも濡れたままでいると、番台からビシッと声が飛んでくる。家と同じようにふるまうとなにかしら怒られるので、いつも一抹の緊張感がありました。まだ昭和の名残がある時代だったから、大人と子どもの距離も近く、ちゃんと注意してくれた。いま思えば、大人への階段のひとつだった気がします」

まるきん温泉に客を迎えるため、浴室を洗い、薪を割り、ボイラーで湯を沸かす悟朗。開業前に湯加減をみるとき、浴槽の湯を手ですくうシーンが印象的だ。脚本には「お湯に手を入れて確認する、と書かれていた」と濱田さん。

「温度をチェックするだけなら、指先で触ればわかります。でも、誰かのために心を込めて沸かすなら、湯を愛でる気持ちもあるのではないか。そんな悟朗の心の描写を自分なりに表現してみました」

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悟朗を演じるなかで、改めて気づかされたことがある。

「これまでお風呂について考えることなどありませんでした。当たり前すぎて。でも、身を沈めるとふ～って大きなため息が出るのはなぜなんだろう。ただ温かいからだけでなく、湯が心とつながっているからなのではないか――。そう考えると、湯へのありがたみが自然に湧いてきて。大切なことを忘れていたと思いました」

本作でひとつの夢を叶えたという濱田さん。それは昭和の日本に象徴される、古きよき世界観の映画に出演すること。

「最近はCGなどの技術がどんどん発達しています。いいことだけれど、一方で昭和の映画に出たいとずっと思っていて。この作品は、まさにそうでした。映画を見終えたときに感想をぶつけ合うのではなく、いい時間だったね、と言い合えるような。劇場から温かい気持ちを持ち帰ることができる、素敵な作品。その一員になれて、とてもうれしいですね」