BMWのフラッグシップEVサルーン、i7に乗った。EVではあるものの、いわゆる新型7シリーズと同じプラットフォームで外見も一緒。4.4リッターのV型8気筒モデル(日本未導入)と3リッターの直列6気筒モデルが同時発売された。
---fadeinPager---
EVか直6か。実際のところ、どっちに乗るか悩むよね(笑)。どっちも乗ってみたいものの、そもそもモデルチェンジの方向性がストレートにEV時代の予言に満ちているのでi7を選んだ。これが間違いなかったのね。理由としては、個人的にいちばん気になるEVサルーンである、ロールスロイスのスペクターを想像させるのに充分な1台だったからなんだ。
当たりの柔らかい上質なマナーのエアサスペンションに、細やかな静音処理。速度無制限のアウトバーンを快適にとばせるBMWサルーンとしての7シリーズに、泰然自若とした余裕と懐の深さが備わっている。ロールスロイスのパルテノングリルの向こうを張るような巨大なキドニーグリルと相まって、新型7シリーズの方向性はとにかく明快。ロールス同様に、その押し出しに見合ったラグジュアリーを提供しようという狙いなんだ。
---fadeinPager---
乗り味はスープでいえば秘伝の鶏がら出汁で、澄みわたった味わいにコクがいっそう深まった感じ(笑)。音楽でいえばソウルを感じさせつつも、やっぱりBMWコンシャスな姿勢は崩さない。乗り始めの印象こそ、全盛期のR&Bシンガーであるアル・グリーンみたいな貫禄のクールネスだけど、乗っていくうちに瑞々しい才気を放つ新進気鋭のシンガー、SZA(シザ)が顔を出すって感じですよ(笑)。
---fadeinPager---
そもそもi7はサルーンらしさに目がいって、「ド」のつくアヴァンギャルドなEV「iX」のような全身でアピールするようなとがり方はしていない。これはエンジンモデルとEVモデルのプラットフォームを共通させていることと、EVの利点である静粛性や重厚感はサルーンの利点でもあるから、あえてアヴァンギャルドを求める必要がなかったからと思われる。
このことから、ハイエンドでミルフィーユのように多層で複雑な味わいが連関しあった世界にいざなう。たとえば走り出すときのトルクの出方やアクセルペダルの踏み心地、そしてどんな音が発生してどれぐらいの音量なのか。さらには止まるときの揺れを抑えつつ、ブレーキペダルと制動のフィーリングがいかに連動しているかなど……
そんなこだわりの行き着く先に、はっきりとスペクターが見えているのが現在地。でも前述のSZAのトレンドセッター的な先進性がまさにBMWらしさでもあり、これが乘れば乗るほどじわじわ味わいを増して、効いてくるのね。まるでSZAの新譜『SOS』みたいに(笑)。
ドライブモードをスポーツに入れると足回りは引き締まり、トルクは鮮烈な壁のように立ち上がる。シートは、上半身の周縁をクッションで優しく受けとめつつも腰から下はセンターにそって硬く、安定したスポーツ走行に備えられている。
ハンドルの舵角を絞ったサーボトロニックと後輪操舵が連動し、クイックな操作感。コーナリングは、およそビッグサルーンとは思えないドライビングの愉しさを提供する。街中でUターンなんかをすると、巨体がまるで自分を中心に回転する感覚なのね。フィギュアスケートのスピンにも似た感覚に「サルーンでこれをやるんだ」とおもわずため息が出たんだな。
なるほど、すこぶる痛快でミュンヘン印。iXに通じる味わいは、もしかしたら隠された「アンチサルーンとしての反骨の牙」にあるのかもって思ったね。i7は電動化されることで、そのブランドらしさを確立した大きな成功例と言えるはずだ。
BMW i7 xDrive60
サイズ(全長×全幅×全高):5390×1950×1545㎜
バッテリー容量:75.3kWh
最高出力:544ps
システム最大トルク:690Nm
最大トルク:745Nm
駆動方式:4WD(四輪駆動)
車両価格:¥16,700,000(税込)
問い合わせ先/BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL:0120-269-437
www.bmw.co.jp
---fadeinPager---