ピーク時の10分の1まで減ったという銭湯…そんな銭湯を後世に残そうとする男たちがいる。Pen最新号「湯道へ、ようこそ」(1月27日発売)から、兵庫・淡路島にある銭湯「扇湯」の応援活動を行う松本康治さんに取材した記事を、抜粋して掲載する。
放送作家の小山薫堂が提唱する「湯道」をご存じだろうか? 湯を尊び、湯を楽しみ、日本人が愛するお風呂について、その精神や様式を追求するという新たな“道”だ。この「湯道」が、生田斗真主演で映画になった。2月23日から全国で公開される。
1月27日(金)発売のPen最新号では、生田斗真をはじめとした出演者のインタビューや、作中で登場する聖地の数々を紹介しながら、本作の魅力に迫る。さらに、時代を超えて愛される名湯や、こだわりの詰まった湯道具も掲載。湯と「湯道」について大特集! 「湯への感謝」と「小さな幸せ」に、ぜひ浸ってほしい。
Pen最新号「湯道へ、ようこそ」
2023年3月号 ¥900(税込)
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レトロモダンな湯を次世代につなぐ、神戸の達人
「銭湯」というキーワードから必ずたどり着く存在が松本康治さん。全国の銭湯を旅し、銭湯に関する著書の多い松本さんが大切にしている銭湯があるという。その噂は聞いていたが、いったいどんな銭湯なのか?
案内され向かったのは兵庫県・淡路島。明石港から高速船に乗って明石海峡を渡る約分間の、短いけれど非日常な船の旅。渡った先は岩屋という小さな港町だ。レトロな味わいの喫茶店や、渋いお好み焼き屋が並ぶ商店街の奥に「扇湯」の姿が見えてくる。
「明石海峡大橋のたもとに暮らしているので、船で行けるのがいいんです。お好み焼きを食べて『扇湯』の風呂に入って一杯飲んで帰る、そんなコースが気に入り通っていました」
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しかし当時から扇湯は「ボイラーが壊れたら廃業」が前提だった。2017年の夏にはそのボイラーが一部故障。それを安く修理できるよう松本さんが手配したことをきっかけに、扇湯のサポート活動が始まった。
「当時の扇湯にはもったいないなぁ、と感じる点が多かったんです。建物も含めた風情、常連さんたちの魅力、そして素敵な女将さん。このお風呂がランドマークになれば町も活性化するのではと思いました。モデルとして思い浮んだのは松山の『道後温泉』。坊っちゃん列車を降りて、商店街が続いた先にお風呂がある。まさに町のランドマーク。銭湯がそういう存在であったらうれしいなと」
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応援活動はすぐに始まった。明石でのビラ配りやオリジナル商品の開発などに加えて、清掃や修繕作業。その活動に集うグループは「島風呂隊」と名づけられ、社団法人化にいたった。
扇湯の魅力は、外観から既にあふれ出ている。まるで映画のセットのような和洋ミックス建築。中に入ればレトロな魅力を放つものがあふれている。いまからでは決してつくれないだろう、時代が重ねたレイヤーの妙があるのだ。
「レトロな銭湯は残せば残すほど価値が上がる面もある。歴史遺産になっていくんです。新しいデザイナーズ銭湯はひとりがつくった世界観ともいえますよね。もちろん素敵ですし、お客さんは集まるとは思いますが、時間を積み重ねて生まれた魅力はいったんリセットされてしまいます。僕らは蓄積された時間のよさを引き出したい。日本の銭湯がすべて新しくなっても面白くないですから」
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ていねいに清掃された浴室に入ると、銭湯好きなら思わず声を上げてしまう光景が現れる。中央に置かれたドーナツ型の浴槽は、一般的な大阪型が湯船に背中を向けて周りを囲むのに対し、ここは対面式。客同士が言葉を交わしながら身体を洗えるスタイルなのだ。
「このカタチは、日本中探しても扇湯でしか見たことがありません。まさに歴史遺産ですよね。僕がこういう趣向になったきっかけは年くらい前に鹿児島の指宿でふと入った弥次ヶ湯温泉。その小さな風呂屋に心を撃ち抜かれ、そんな風情の残る銭湯を巡るようになったのです。でも僕にとって世界遺産のような風呂屋が次々に廃業している。これは大変なことが起きていると思っていまの活動を始め、いまに至ります。岩屋の街にこの風呂が存在してくれることが嬉しいんです」
松本さんが大切に守り、その存在の噂が広がっている扇湯は、昔ながらの銭湯らしく熱めの温度設定。だが、岩屋に湧出する鉱泉を使用しているから、温度は熱くても不思議とやわらかく身体を包み込んでくれる。嬉しいのは水風呂もこの鉱泉100%であること。これも松本さんらのアイデア。温冷交代浴ですっかり仕上がった後には、特製「淡路島ハイボール」を。島外からも至福の一杯を求めて湯を訪れる人がいるほどの名バイプレイヤーだ。
扇湯
●兵庫県淡路市岩屋1470
TEL:090-6976-6541
営業時間:15時30分〜22時
定休日:木
料金:一般 ¥420
創業100年近くの老舗銭湯。2021年春より、全浴槽で単純弱放射能冷鉱泉を使用した温泉と水風呂を楽しめるようになった。浴場で聞こえてくる古い漁師町ならではの常連客の浜言葉も味わい深い。
「湯道へ、ようこそ」
2023年3月号 ¥900(税込)
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