グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。
この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。
電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP 2022」のライブパフォーマンス
——今回は、昨年12月9日に行われた電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP 2022」で行われた、オーディオ・ビジュアルのライブパフォーマンスについてお伺いさせてください。
YOSHIROTTEN はい。今回、僕が過去に発表してきた5つのテーマを一連で体感してもらうライブだったんですよ。それぞれが持つ世界が、じつは繋がっているんだよっていうことが、このライブでやりたかったことです。
僕のやっている音楽ユニットYATTの相方である、ミュージシャンのTAKAKAHNと一緒に出演しました。ちょうどYATTのシングルがリリースされるタイミングだったんですよね。YATTとして初めてのライブであり、僕としてもオーディオ・ビジュアルのライブをやるのは初。新作というよりは、いままでやってきたことがぜんぶ表現できるような35分のライブにしようというコンセプトからスタートしました。
ライブとして、映像の表現を形にするにはということを考えたときに、前から一緒に仕事してみたかった、映像作家でビジュアルアーティストの橋本麦くんに声をかけました。(橋本)麦くんは、映像作品をつくるとき、既存のアプリケーションを使うのではなく、目的に合わせてソフトからハードまで一から作る人なんです。
NORI 僕、その話聞きたかった。
——ハードっていうのは?
NORI 機材そのものからつくる、みたいなことですよね?
YOSHIROTTEN そうだね。クリエイティブプロセスの段階で、(橋本)麦くんからもらったテキストなんだけど、
静止画として作られたグラフィックの造形や、色の関係性をパラメトリックに再解釈し、環境に呼応しながら変容する動的なビジュアルへと発展させました。
また、音に反応するオーディオリアクティブのみならず、グラフィックレイヤーそれ自体から音を再生することにより、視覚と聴覚の共感覚的な効果を鑑賞者にもたらします。
——それが集約されたプログラムを作るっていうことですか?
YOSHIROTTEN そうですね。
NORI 今回のためにプログラムを作ったんですか?
YOSHIROTTEN うん、ベースの音をまずパートごとに作っていくんですけど…。
YOSHIROTTEN 映像としてはまず「RGB」っていう自分の作品と、そこから地球の中に入っていく「EARTH」、「FUTURE NATURE」から「WAVE」、「ATMOSPHERE」そして「SUN」というプロジェクトに行き着くという流れがあって。
——なるほど。
YOSHIROTTEN 「RGB」は、自分の初めてのこのビジュアル体験みたいなものをテーマにしているんだけど、ここからスタートして映像が動き出して、それは僕の描く、イマジナリーワールドに入っていくきっかけになっているんですよ。
そこから始まって、真っ暗になって地球が出てくる。通常の地球からどんどん近づいて内側へ入っていくところから、音楽がテクノミュージックに変わるんですけど。そこまではわりと、電子音のみから始まって、内側へ入っていくと一度、ノイズが入っていって、中に侵入していく。
その時に、地球のいわゆるいろんな自然物が登場する、20分ぐらいの世界が広がります。その後に「WAVE」っていうところに行き着くんですけど、それは地球の中のコアの中にあるシルバーの海みたいなものがテーマなんですが、そこに流れついていく。
そこからグラフィックがぶつかると、音に合わせて、ぴょんってぴょんって変化していくパートがあるんです。そこを通り越えて、銀色の海を抜けていくと現れてくるのが「SUN」という。
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NORI ライブの音はタカくん(TAKAKAHN)が作ったやつがあるのと、麦くん(橋本麦)が作ったプログラムから出てる音の両方使ってたんですか?
YOSHIROTTEN 音はまず「RGB」「EARTH」「FEATURE NATURE」「WAVE」「SUN」、この5つの音をそれぞれ作って。僕はそれぞれのグラフィック素材を、麦くんに渡してます。
ライブの音に関して何をやったかっていうと、それぞれの音を流すタイミングは楽曲ごと、別々にCDJに入れた状態でベースとなる音を流していて。さらにそこへシンセサイザーの音やキックの音を乗っけたり、ノイズやダブ、色々な効果音をエフェクトさせたものも色々と入れて、現場の映像を見ながらライブしていった形です。
映像は、元々のグラフィックをベースに、いろんな効果が出るようなものを入れたりしています。あとはピッチを合わせていくと、映像もそのピッチに合わせて動くっていうことができるんで。そこはその場のリズムだったり、タイミングだったり音のアレンジに映像も合わせてやりました。僕は色とか映像の効果を間に入れていった。
NORI それヨシローくんがやってたんだ。
YOSHIROTTEN そう。VJ的な感覚で麦くんと一緒にやってましたね。あとはミキサー使って音へのエフェクトも遊び感覚でやってました。
——NORIさん現場で見てみてどうでしたか。
NORI 新しい体験だった。僕は40分間もあんなに集中して非言語的な映像を見たことはなかったかな。造形のコンポジションとか構成は、麦くんのベースを使って、そこにグラフィックというか色をヨシローくんが乗っけていっている感じ?
YOSHIROTTEN 映像自体は麦くんに再度作ってもらってるんだけど、テーマに合わせて動きだけをつけて欲しかったから、色とかグラフィックは僕が渡したものから基本変えないで欲しいとお願いしてあった。
NORI なるほど。
NORI ライブはほとんどぶっつけ本番だった?
YOSHIROTTEN そうですね。経緯を話すと、2年ぐらい前にMUTEKからライブのお話をもらっていて。今年の夏に、正式にオファーをいただいて。MUTEKが一番大事にしているのは、ライブであり実験する場所というコンセプトだから、「今までヨシローさんやったことないことを、思いっきりやってみてください。あとは何でもいいです」と言っていただいたんです。僕とほかのミュージシャンがコラボレーションするとか、そういう選択肢もあったんですけど、自分の中ではもうイメージがあったんで。
これまで個展のときに、大きいスクリーンに自分の映像を流して、ライブをしてもらうということはあったけど、今回のような映像としてのライブらしいライブっていうのは初めて。
NORI 具体的にオーディオビジュアルというか、こういうことは前から考えたりはしてたんですか?
YOSHIROTTEN こういう自分が出てライブするようなことは、正直あんまなかったかもしれないですね。でもMUTEKでってなったときに、「あ、してみたいかも」と思って。
というのは、あんまり自分がライブをするみたいなことよりは、ちゃんと形を作ってから展示するみたいなことの方が、100%の自分の表現が出せるじゃないですか。ライブで自分の表現を伝えるというのは初めてだったから。本当に自分の表現として、伝えたいものになるのか、ドキドキしてました、ずっと(笑)。
NORI 今までのいろんなシリーズが、さっき言ってたような流れで連なってるって発見は、このライブの制作を通してあったんですか?僕、その話をライブの数ヶ月前に聞いていたので、すごくいい視点だなって思ったんですけど。MUTEKがとっかかりだったんですか?
YOSHIROTTEN そういう意味では、MUTEKが一つのきっかけにはなったんですけど、自分が作ってきたものたちっていうのは、どういう関連性なんだろうなんだろうって考えたときに、全部繋がっているなって。
これって展示としてもありだと思うんだよね。今回のような順序で、最後に「SUN」に辿りつく、ということを、MUTEKではライブで、オーディオ・ビジュアルという手法でやったという感じかな。
今回の5つのテーマを、“それぞれの部屋”という表現でもできるかもしれないというのを改めて思いました。たとえばその部屋の脇道に、コラボレーションした作品だったり、「Cityscape Resolution」があったり…。そういったところにも寄り道ができる、相関図のような見せ方。
NORI うん。過去10年間を振り返るといろんなシリーズ、いくつか塊のようなものがあって。全部ヨシローくんが作ってるものだから、関連性は当然あると感じてましたが、それがもっと明確な形でアイデアになってきたなって。MUTEKのライブを見たことで、解像度が一気に上がったような感覚はありましたね。
ファンとしては、「あのときのあの絵だな」とか、それが動いてるとか、そういう楽しみも結構ありました。
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NORI 僕もいわゆるオーディオビジュアルって言われるようなライブって、たくさん自分も見てきたわけじゃないんだけど。ヨシローくんがMUTEKの制作で思い出したものとかあったのか、ちょっと聞いてみたかったです。
YOSHIROTTEN 僕もそこまでオーディオ・ビジュアルの世界を、いままでものすごく見てるかというと、そういうわけではないんだけど、一番最初に多分そういうのを体感したのはうん。2000年のWARPのツアーで、クリス・カニンガムを幕張メッセで見たときは、衝撃だった。最初にクリス・カニンガムの手元が映って、ジャックを刺すっていうところから始まるやつで。
NORI それ僕も行ってました。MUTEKのライブを見て、思い出しましたよ。
YOSHIROTTEN 自分にとってのオーディオ・ビジュアル体験で、なにがすごかったかなっていうときに、あれをすぐ思い出した。
あと2 MANY DJ'Sがミックスしてるときに、かけてるレコードジャケットが動き出して、映像もミックスされてるやつ。しかもあれってさ、たしかDVDJが出た当初で、本当に生でミックスしてたんだよね。
NORI うんうん。
YOSHIROTTEN あとはクラフトワークとか。僕自身は、20代のときにデザイン会社で働いてるとき、マッドカプセルマーケッツのライブツアーで、VJをやってたりしてたんですけど。映像と音とのダブルショックって、やっぱりライブでしかできないことじゃないですか。今回のMUTEKはそれ以来かも。ちゃんとしたお客さんの前で、作品を見せるということは。
NORI 大きなフェスティバルでも、今回のセットを見てみたいなと思いましたよ。
YOSHIROTTEN 今回は元ネタっていうか、自分が作っていた元々の映像をベースに、それを使ってライブでは麦くんが、リンクさせたり乖離させたりして、さらに広げてくれるっていうことを狙ってたんで。映像として指標となるものはあったんですけど、それが麦くんの手によってどう変わるか。それは自分自身が一番、楽しみだった。
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——実際にやり終えてみて、どうでしたか。
YOSHIROTTEN 楽しかったですね。展示のときとは別の新しい感覚の喜びがありました。
終わったあと、NORIとか友達とか見に来てくれた人から「すごい良かった!」って、みんな目をキラキラさせながら言ってくれたりとか。そういうのも新鮮でよかったです。現場では、僕のことを知らない人からも「良かった」って声をかけていただいたりして。
NORI 正直、本当に期待以上の内容だったんですよね。今後の方向性のきっかけになるんじゃないかなって。麦くんとの相性も予想以上でした。
——YouTubeのライブ映像、現場の迫力が伝わってきました。
NORI でもYouTubeぐらいのサイズと画質だと、現場とはかなり違うと思います。あのスケールとセッティングならではのすごい没入感でした。
——今年は音楽的な活動も増えそうですね。
YOSHIROTTEN はい。このライブはさらにアップデートさせて今年どこかでまた披露したいなと思っています。あとYATTも今年アルバムが出せそうなんで、10年ぶりくらいにツアーとかできたらいいなと
NORI そういえば、AKIO NAGASAWA GALLERYで、写真家のTAKAYさんとの展示「TOKYO HANABI」が開催中ですね。
YOSHIROTTEN うん。TAKAYさんが撮影した東京の風景写真のみを使って、雑居ビルに咲く植物、金網や鎖がかけられた建造物、そして街を走る光を抽出し、重ね合わせた作品群です。今月1月28日の土曜日までなので、観に来てもらえるとうれしいな。
TAKAY feat. YOSHIROTTEN「TOKYO HANABI」
会場:Akio Nagasawa Gallery Aoyama
住所:東京都港区南青山5-12-3 Noirビル2F
会期:〜2023年1月28日(土)
開廊時間:木〜土 11:00〜13:00, 14:00〜19:00
https://www.akionagasawa.com/jp/exhibition/tokyo-hanabi/
グラフィックアーティスト、アートディレクター
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR