ミュージシャンがこぞって愛車にした、アストンマーティンDB6
ザ・ビートルズの『ヘイ・ジュード』は、聴いたことがないという方を探すのが難しいほど有名な楽曲だ。1968年に発表されるや『ビルボード』誌で9週連続で1位を獲得、同誌の年間ランキングでも1位に輝いた。この曲の印象的なメロディが生まれた時の状況が面白い。ポール・マッカートニーが愛車のアストンマーティンDB6をドライブしている最中にメロディがひらめき、オプション装備のテープレコーダーに吹き込んだというのだ。
11世紀の中国の詩人にして政治家であった欧陽脩は、よい考えを思いつく状況として、「三上(さんじょう)」という言葉を残している。三上とは「馬上、枕上、厠上(しじょう)」のことで、馬に乗っている時、布団の中、トイレに入っているときにアイデアが降りてくるのだという。人馬一体になったかのように感じるアストンマーティンDB6の官能的なドライブフィールがポールの感性を刺激して、あの名曲が生まれたのではないだろうか。クルマとザ・ビートルズの両方を愛する者としては、そんな想像をしてしまう。
ポールの愛車遍歴をたどると、どうやら彼は筋金入りのアストンマーティンのファンであるようだ。アストンマーティンDB6の前には、アストンマーティンDB5を愛用していたのだ。
DB5といえば、1964年公開の映画『007ゴールドフィンガー』と、翌65年公開の『007サンダーボール作戦』の2作品でボンドカーとして大活躍したことで知られる。つまりこの時期、ポール・マッカートニーとジェームズ・ボンドというふたりのアイコンが、アストンマーティンDB5に乗っていたわけで、いかにこのブランドが特別な存在であったかがわかる。
---fadeinPager---
ザ・ビートルズのライバルにあたるザ・ローリング・ストーンズも、アストンマーティンに縁がある。まずミック・ジャガーは、ポールと同じくアストンマーティンDB6を愛用していた。真偽のほどは定かではないけれど、ポールが先にグリーンのDB6を購入したので、ミックは“色カブり”を避けるためにミッドナイトブルーを選んだという説もある。
ドラムスを担当し、ファンからは「ストーンズの魂」とも称された故チャーリー・ワッツのエピソードは少し変わっている。チャーリーはクラシックカーのコレクターであったけれど、実は運転免許をもっていなかった。ではどうやって楽しんでいたかというと、それぞれのクルマに合ったスーツをびしっと着こなし、運転席に座り、エンジン音や雰囲気を楽しんだのだという。彼のお気に入りの一台に、後にアストンマーティン傘下となったラゴンダ・ラピードがあった。
一見、バラバラの存在のように見える007とビートルズとストーンズであるけれど「アストンマーティンを愛する」という共通点があるのだ。