ジュエリーと学術標本を組み合わせて“鳥”の美しさに迫る特別展示『極楽鳥』。アートとサイエンスが劇的に邂逅する、これまでにない視点の展示は必見だ。
東京大学総合研究博物館と、パリのハイジュエラー、ヴァン クリーフ&アーペルが支援する「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」が、アンティークや現代の名品ジュエリー約100点を集めた特別展『極楽鳥』を開催中だ。気鋭のミュージアム、インターメディアテクを会場に、「鳥」というテーマのもと、芸術と自然科学が渾然一体となったポエティックな空間に出合えるのだ。
「鳥をモチーフにしたジュエリーと、鳥の剥製や写生などが並びます。“表現”と“現物”が一堂に会するわけですね」と語ってくれたのは、東京大学総合研究博物館特任准教授で、動物行動学を専門とする松原始(はじめ)。
「極楽鳥をタイトルにしたのは、この言葉が美と鳥を巡る多くの要素を含んでいると思ったからです。きれいな飾り羽をもつこの鳥は、足をもたず、風を食べて一生飛び続けると考えられていました」
実際には、もちろん足はあった。長い飾り羽は装飾品として珍重され、大量に捕獲されてヨーロッパに送られたのだが、そのとき梱包に邪魔な足を切り取って箱詰めしたため、伝説通りに足のない鳥が16世紀のヨーロッパ人の眼前に現れたというわけだ。
「姿の美しさや、人に発見された時の驚き、人に与えたイマジネーション、そして人がその美しさをどう使い、保護するまでに至ったか。極楽鳥は、それらすべてのストーリーを包有した存在です」
今回の展示は、旧東京中央郵便局舎をリノベーションしたインターメディアテクならではの重厚な空間のなか、夜の鳥、朝の鳥、昼の鳥、そしてファンタジーの鳥へと繰り広げられていく。選りすぐりのジュエリーと多くの貴重な剥製は、まるで人のイマジネーションと大いなる自然とが美を競い合っているかのようだ。
「このミュージアムは、現代のヴンダーカンマーという構想で生まれました」と語る、東京大学総合研究博物館特任研究員で、美学・美術史学が専門の大澤啓。ヴンダーカンマーは「驚異の部屋」という意味のドイツ語で、16世紀のヨーロッパで流行った好事家のコレクション陳列室ともいうべきもの。珍奇な剥製や鉱物、貝殻などをぎっしり並べた部屋だ。
「天然のものもあれば人工物もある不思議な部屋です。このヴンダーカンマーの視点で見ると、現代では学術標本として見なされている剥製や博物図譜などの品々も、新たなデザインリソースになりうると考えました。現代ではアートとサイエンスは区別されていますが、ここでは一緒なのです」
ヴンダーとは英語のワンダーのこと。驚きや不思議が詰まった『極楽鳥』は、知的好奇心をかき立てるワンダーランドのようだ。
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〜展示紹介〜
夜からファンタジーまで、展示内容の一部を紹介する。
Night(夜)
コノハズク●1973年 剥製標本(旧)老田野鳥館旧蔵 東京大学総合研究博物館研究部所蔵 photo: UMUT
おもに昆虫を食べる小型のフクロウ。ブッキョッコーと聞こえる鳴き声は、1935年にこの鳥の声だと確認されるまで、1000年の長きにわたってブッポウソウ(仏法僧)という別種の鳥のものだと間違われてきた。
フクロウ●年代不明 剥製標本(旧)老田野鳥館旧蔵 東京大学総合研究博物館研究部所蔵 photo: UMUT
夜行性鳥類の代表格といえば、この鳥。集光性を高めた目、音を受け止める平たい顔面、発達した聴覚と音源定位能力、飛ぶ時に風切音を消す特殊な羽毛など、夜間の狩に特化した闇の凄腕ハンター。
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Morning(朝)
パラワンコクジャク●年代未詳 剥製標本 山階鳥類研究所所蔵 photo: UMUT
フィリピン、パラワン島固有のコクジャク。羽を飾る派手な目玉模様はメスの注意を引き、オスの魅力をアピールするためのもの。色や模様で視覚に訴えるという点では、ジュエリーとも共通点がある。
ギュスターヴ・ボーグラン/孔雀のブローチ●1865年頃 ゴールド、パール、ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド 個人蔵 photo: Benjamin Chelly
宝石で飾り立てた羽を広げ、真珠の上にとまったクジャク。フランス第二帝政期にナポレオン3世のクラウンジュエラーとなり、ヨーロッパ各国王族に仕えた伝説的宝石商、ギュスターヴ・ボーグランの作。
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Noon(昼)
アカフタオハチドリ●年代未詳 剥製標本 山階鳥類研究所所蔵 photo: UMUT
輝くような色彩は構造色によるもの。羽根の内部に分子レベルの微細な膜や微粒子があり、これが光を散乱・干渉させているため、色が生まれている。宝石にも同じ構造色を特徴とするオパールなどの石がある。
エキゾチック・バードのブローチ●作者未詳 1880年頃 トランブルーズ、ピンクダイヤモンド、銀に金 個人蔵 photo: Benjamin Chelly
ハチドリをもとにしたと見られるブローチ。15世紀から17世紀半ばの大航海時代にヨーロッパにもたらされた珍かな鳥類は、各国の宮廷を魅了し、その後もエキゾティックなジュエリーがたびたび流行した。
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Fantasy(ファンタジー)
ピエール・ステルレ/鳥のブローチ●年代未詳 プラチナ、イエローゴールド、ダイヤモンド、アズライト 個人蔵 photo: Benjamin Chelly
飛ぶ鳥の一瞬の姿を様式化して捉えたユニークなブローチ。ボディの青い石はアズライト。これをデザインしたピエール・ステルレは、20世紀の偉大なジュエラーとして多くの重要人物を顧客としていた。
ヴァン クリーフ&アーペル/鳥のブローチ●1920年代 ダイヤモンド、エメラルド、オニキス、鳥の羽、プラチナ 個人蔵 photo: Benjamin Chelly
本物の羽根をジュエリーの一部として組み込んだブローチ。現実にはいるはずのない鳥の姿を、職人技をこらしたダイヤモンドジュエリーと、天然の美しさをもつ長い羽根とでドラマティックに表現している。
インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』
会期:開催中~5/7
会場:JPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」3F
東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE 2・3F
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:11時~18時 ※金、土は20時まで
休館日:月(祝日の場合は翌日)、2/20〜27、その他館が定める日
入場無料
主催:東京大学総合研究博物館+レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校
協力: 山階鳥類研究所
協賛:ヴァン クリーフ&アーペル
企画:東京大学総合研究博物館インターメディアテク寄付研究部門+東京大学総合研究博物館国際デザイン学寄付研究部門
www.intermediatheque.jp
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ジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」が4年ぶりに再び日本で開校
自然が長い時間をかけてつくり出した宝石の組成と、それを磨き、削る人の手。石の色と輝きを組み合わせる創造性。自然の姿を真似、神々に捧げ、権力や愛情の象徴に仕上げた伝説と歴史。ジュエリーと宝飾品の世界を語ろうとするとき、そこには実にさまざまなファセットがある。
ヴァン クリーフ&アーペルは、ジュエリー界の扉を一般の人々に対して開こうと、2012年に「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」をパリに開校した。カリキュラムは、宝飾の芸術史、宝石学、ジュエリー制作テクニックの3本柱。専門講師陣による少人数制の講座で、ジュエリーの世界を体験することができる。ルビーとサファイアは同じ鉱物であること。古代エジプトでは金よりも、銀が珍重されたこと。そんなわかりやすい解説から始まる2〜4時間の講座は、参加者の知識欲を誘ってやまない。デザイン画からセッティングまで、ジュエリー制作の技術を職人の指導で体験できるのもレコールならではだ。
レコールが世界各地で行っている特別講座が、この春東京に上陸。ジュエリーの歴史と美学を語る7講座、宝石学の5講座、そしてジュエリー制作テクニックの一端を体験できる6講座と、4つの新講座を含む計18講座を実施。ひとつでも体験すれば、ジュエリーへの眼差しがこれまでとは違ったものになるはずだ。
「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」日本特別講座
会期:2/24〜3/10
会場:京都芸術大学 外苑キャンパス
東京都港区北青山1-7-15 2F
※申込みは公式サイトにて受付
www.lecolevancleefarpels.com/jp/ja