1977年に生まれ、人類学や民俗学などに関心を持ち、世界各地のあらゆる辺境や都市を旅し続けながら作品を発表する写真家の石川直樹。冒険家として山へ挑み続ける石川は、1998年に北アメリカ・アラスカ山脈最高峰のデナリの登山隊に加わると、その後にエベレストの登頂を経て、同じヒマラヤに位置する世界第2位の高さを誇るK2へと遠征する。そして2016年にはデナリの単独での登頂に成功。しかし新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、2年余りも海外への渡航の断念を余儀なくされてしまう。
東京・神宮前のGYRE GALLERYで開催中の『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』は、コロナ禍を乗り越え、2022年春から秋にかけて、これまで海外に行けなかった反動のようにヒマラヤへ繰り返し出かけて撮影した写真を紹介している。4月のダウラギリ(8167m)にはじまり5月にはカンチェンジュンガ(8586m)へ登頂。7月にはK2(8611m)とブロードピーク(8051m)、8月にはナンガパルバット(8126m)、さらに9月にはマナスル(8163m)と、6つの8000m峰に立て続けに遠征すると、雪崩で撤退を余儀なくされたナンガパルバットを除いた5つの山の頂上に立つことに成功した。
このうち会場ではカンチェンジュンガ、 ダウラギリ、マナスルに登った際の写真が展示されているが、石川が「身体はズタボロの状態だった。」と語るのが世界で3番目に高いカンチェンジュンガだ。2018年に下見に行き、かねてより登頂を夢見ていたという石川は頂上に迫るも、頂を間違えるというまさかの事態に陥って一度撤退。その後、カトマンズでの数日間の休養を経てどうにか登頂を果たす。また10年ぶりに向かったマナスルも雪崩が頻発し、頂上付近では強風にさらされるなど緊迫した登山を強いられたという。こうしたエピソードを伺わせる登山ルートの地図や、山頂付近で撮影した写真のコンタクトシートも見逃せない。
「生きている実感などという生半可な言葉ではあらわせないほどの強い手応えが毎日一滴ずつ滴り落ちて、自分の中に染み込む。そして、身体が日々刷新されていくような不思議な感覚がある。」と述べる石川。肉体的にも精神的にも極限の状況において、ネガフィルムを充填した古い中判カメラを持ってヒマラヤの山の麓から頂上に至るまでの日々を精緻に記録している。なおGYRE地下1階のドームテント内ではマナスル登山時の映像もインスタレーションも公開されている。これまでの山岳写真の枠を超え、石川が山に身を置いて頂へと挑み、命懸けでもぎ取ってきた誰も模倣し得ない写真を目に焼き付けたい。
『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』
開催期間:2022年12月17日(土)〜2023年2月26日(日)
開催場所:GYRE GALLERY
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3F
TEL:0570-05-6990(ナビダイヤル)
開館時間:11時~20時
休館日:不定休(12月31日、2023 年1月1日、2月20日は休館)
入場無料
https://gyre-omotesando.com/art/