腕時計はディテールやムーブメントも見逃せない要素だが、佇まいとも言い換えられる全体の雰囲気が心を惹きつけるといっていい。セイコー腕時計110周年記念限定モデルとして発表された「セイコー プレザージュ」も、優しさと温かみを感じさせるノスタルジックな魅力が横溢しており、ひと目惚れする人も少なくないと思われる。
日本の時計づくりは時計王国スイスからはるかに遅れて始まったが、懐中時計が主流だった1913年(大正2年)にセイコーは国産初の腕時計「ローレル」を完成させた。日本機械学会は、我が国の機械技術や産業の発展に寄与し、国民生活に貢献した次世代に伝えるべき文化的遺産と評価し、2014年に「機械遺産」に認定している。この歴史的な腕時計をオマージュして、当時のスタイルを甦らせたのが「セイコー プレザージュ」の記念限定モデルだ。
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艶やかな光沢を放つ琺瑯ダイヤル
手巻きのスモールセコンド3針をセンター3針の自動巻きに変更しているが、懐中時計を想わせる初代「ローレル」の丸みを帯びた独特のケースフォルムとプロポーションを最新技術で造形。ボックス型の風防もサファイアクリスタルで再現したほか、大型の球形リューズがヴィンテージ感を決定的に印象付けている。ゼンマイの巻き上げを容易にする工夫だが、新作は自動巻きなので機能的にはこれほどのサイズは必要ない。それでも、オリジナルの造形的な完成度が高いせいか、滑り止めとして細かな刻みが入った大型リューズは、サイドに膨らみを持たせたケースに実に良く似合うのである。
ダイヤルも往時と同じく琺瑯製であり、ミルクのような奥ゆきのあるホワイトが艶やかな光沢を放つ。エナメルと同じく、金属の表面に釉薬を塗布してガラス化させる技法だが、製造の難易度が高い。今回のモデルでは琺瑯職人の横澤満氏が監修。彼の熟練した技によって、一枚一枚を丁寧に焼き上げたという。そのダイヤルにプリントされたアラビア数字も、初代と同じオリジナルの書体を採用。「4」の右端に装飾を加えた特徴的な書体も忠実に再現されている。
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時計好きを刺激するサブダイヤルに注目
単純な復刻、レプリカに留めないのがセイコーの流儀であり、9時位置には新しくパワーリザーブ表示を追加。さらにセンター3針の採用で不要になった6時位置のスモールセコンドをポインター式の日付表示に変更している。ただし、外周のレイルウェイトラック(線路型目盛り)を残しているほか、細身の針を配置しているため、遠目ではスモールセコンドに見えてしまう。利便性を高めながらも、時計好きを刺激するウィットとも解釈できる、このモデルの隠れた真骨頂と評価したい。
12時の赤い数字がアクセントとして全体を鮮やかに引き締める一方で、ホワイトの琺瑯ダイヤルにブルーの針が優しくコントラストする。現代社会はますます加速度を増しており、苛烈な競争の中で失われがちな人間味を呼び覚ましてくれるモデルではないだろうか。
問い合わせ先/セイコーウオッチお客様相談室 TEL:0120-061-012
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