2022年の12月20日に金融政策決定会合で、日銀が長期金利の変動幅を拡大すると発表した。その発表があった途端に日経平均株価やTOPIXは急落し、ドル円も131円まで円高が進んだ。少し驚いたのは、その日の新聞の夕刊で住宅ローンの負担懸念の報道が流れたことだ。2023年に住宅ローンは組めないのか? 少し検証してみよう。
そもそも日銀が上限引き上げを決めたのは「長期金利」だ。金利が上がったのは日本国債10年で、一時0.4%以上に上がった。住宅ローンの固定金利は、長期金利を基準に決まるため住宅ローンの固定金利は上がると考えられる。筆者は住宅ローンの金利を定期的にウォッチしているが、昨年の住宅ローン固定10年は、既に上昇している。それは米国の利上げのあおりで、長期金利が上昇傾向にあったからだ。昨年から固定金利は上昇していたのだ。長期金利の上昇は、ある程度予測はできていた。
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住宅ローンの変動金利は上がらない
一方、多くの方が利用している住宅ローンの変動金利はどうなのか? 日銀、黒田総裁の政策修正は「金融緩和をより持続的に行う」と言っている。ただし、黒田総裁は利上げではないと言ってもメディアや金融市場は実質的な利上げと捉えていて、東京市場の休場中にドル円は129円台半ばまで下げた。
また変動金利は、日銀の政策金利に影響を受ける短期金利を基準に決まる。日銀が金融緩和を続けるうちは、変動金利は基本的には上がらない。そもそも、賃金の上昇なく住宅ローンの金利が上がってしまっては破綻する家計が急増してしまう。日銀としてもそれは避けたいのだ。
メディアのタイトルである「住宅ローンの負担増懸念」は、かなり煽った報道といってもいいだろう。資産運用をするには、ニュースを見るのは必須だが、マスコミは悲観的に煽った記事を書くことが多いという事実を忘れないようにして欲しい。ちなみに、既に固定金利で住宅ローンを借りている方は固定期間中の金利は変わらない。ニュースに煽られて繰上げ返済をしてしまうのは、愚かな行動だ。
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住宅ローンの金利の決まり方を学ぼう
そもそもの銀行の住宅ローン金利の決まり方を学んでおこう。住宅ローンの金利は、大きく分けて変動金利と固定金利がある。変動金利は、日銀の政策金利の影響を受ける「短期金利」を元に決められる。一方、固定金利は10年国債の金利に代表される「長期金利」等を元に決定される。
その短期金利や長期金利を参考にして様々な金利タイプの「店頭金利(基準金利)」が決まるのだ。そして店頭金利から「引下げ幅」を差し引くことで、実際に利用者が借りるときの住宅ローン金利が決まる。引下げ幅はいってみれば「値引き」のような存在だ。
今後の金利を予測するには、引き下げ幅と日銀の政策金利をよく見ることになる。まず、引下げ幅については、銀行同士の競争が続く限り期待できると考えられる。都市銀行や地方銀行だけでなく、ネット銀行も含めて顧客の争奪戦が続いているため、特に変動金利の引下げ幅は維持されると考えられる。
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今後の金利は上がるのか? 対策は?
では、固定金利はどうなのか。2022年の2月くらいから固定金利が銀行各社で上昇している。欧米の中央銀行が利上げした影響で日本の長期金利も上昇したのが原因だ。しかし固定金利の場合、比較的期間の短い10年以内の固定金利は銀行によって上昇率が違う。変動金利は、ほとんどの銀行で据置だが、固定金利には差がでている。その理由は、変動金利は毎月、または6ヶ月ごとに見直して上げることができるため焦って上げる必要がないからだ。政策金利が上がってから、変動金利を上げても銀行側に大きな損はない。
住宅ローンの金利で気になるのは、来年の春に日銀の黒田総裁の任期満了によって政策が変わるかもしれないことだ。金利が上がる時の対策をしておこう。変動金利で借りている場合の対策としては、繰上げ返済の資金を残しておくことや借換えも視野に入れて諸費用を準備しておくことになる。
またこれから借りる人は、金利が上がる前提で借入額や金利プランを検討しておけば安心だ。金融機関のサイトには住宅ローンシミュレーションがある。途中で金利が上昇する場合も、シミュレーションできるタイプがあるので、金利が上がった時の返済額をシミュレーションしておくといいだろう。
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変動金利で住宅ローンを借りる人が急増している
2023年1月の大手5行の平均基準金利では22年12月より0.24%高い3.70%となった。13年8月以来の約9年半ぶりの高水準だ。そもそも2021年は、10年固定金利が1%を切って0.85から0.9%の銀行もあった。2022年に入ってから徐々に10年固定金利は上昇している。今後、10年固定金利は金融機関によって対応が分かれると考えられる。
では2023年の住宅ローンは、どのタイプを選んだらいいのか? まずは住宅ローン利用者が現在利用している金利タイプを調べてみた。住宅金融支援機構が2022年4月に調査した結果を見ると73.9%が変動型を選んでいる。固定期間選択型は17.3%、全期間固定型は、8.9%だ。2018年では変動型60.3%、固定期間選択型が25.1%、全期間固定型が14.6%だったのだから、変動型を選んでいる方が年々増えていることがわかる。
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2023年は、変動金利の選択はアリだが…
それは不動産価格の高騰も影響していると筆者は考えている。固定金利は2022年に入って上昇してきたが、変動金利は低いままだ。首都圏を中心として住宅価格は上昇し続けている。住宅価格が高いので、毎月の返済額が最も少なくなる変動金利を選んでいるのだろう。
ただし変動金利は、金利の変動のリスクを負うことになるのを忘れてはいけない。その点を理解しないで返済額が最も少なくなるという理由だけで住宅ローンを選択するのはとても危険だ。金利が上がった場合を考えて、身の丈に合ったマイホームを購入して欲しい。それを考えた上で、2023年は、まだ変動金利の住宅ローンを選んでもいいだろう。全期間固定金利は、今後も上昇すると予測できるからだ。それに対して、変動金利は据え置きになっている。ただし政策金利の変動があった時に、借換えできる準備ができる人というのが前提だ。
また、変動金利を選ぶ場合「5年ルール」がある銀行を選んでおこう。5年ルールとは、金利が上昇してもすぐに毎月の返済額が増えない仕組みのこと。また「125%」ルールというものもある。5年経過後の6年目からの毎月の返済額は、今までの返済額に対して125%の金額までしか上げることができないというルールだ。住宅ローンの金利が上昇しても、5年ルールと125%ルールがあれば、急激に毎月の返済額が上昇することはない。
もしも金利が上昇した場合は、急激に返済額が上昇する前に借換えをすることがポイントだ。変動金利を選ぶ場合は、来春の日銀の黒田総裁の任期満了後の政策金利の動向も考えておく必要がある。
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住宅ローンを借りるには家計をよく知ること
ただし「未払利息」が生じる可能性があることも考えておこう。金利が上がると利息は増えるので、毎月の返済額に占める利息部分の割合も増えていることになる。金利が急激に上昇した場合、毎月支払うべき利息の金額が返済額よりも多くなってしまうと未払いの利息が発生することになる。この支払いきれずに返済が後回しになった利息のことを「未払利息」という。
5年ルールと125%ルールの場合、急激な金利上昇時には「未払利息」が発生しやすい。筆者が2003年頃に組んだ住宅ローンは、変動金利1%だったが、5年後2008年には、変動金利2.5%に上がったことがある。今後インフレがさらに進む可能性は高い。その場合、金利も確実に上昇するのだから、変動金利を選んだ場合、将来ローンの支払いが増える可能性がある。変動金利を選ぶ場合は、住宅ローンを支払っても貯蓄できる家計であることが前提だ。
もしも経済的に余裕がなく、住宅ローンを支払うと収支がギリギリになるような家計の場合は、安全性を考えると固定金利にした方がいいだろう。また、金利が上がれば住宅価格も変化するとも考えられるので、余裕のない場合はマイホームの購入時期をよく考える必要がある。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/