〈ワイヤレスイヤホン〉
final ZE8000(ファイナル ZE8000)
完全ワイヤレスイヤホン(TWS)の常識を根底から覆した、画期的な音質が実現した。ファイナルの「ZE8000」は、ハイエンドオーディオ的な地平まで音質を高めたTWSとして、長く歴史に残るに違いない。
それほど、時代を画する音質だ。あまたの有線イヤホン、ヘッドホンはもちろんのこと、空間で聴くスピーカーの音を凌駕したと言っても、決して大袈裟ではない。
そもそもTWSの分野では、ブルートゥース伝送の帯域が狭く、圧縮による音質劣化が厳しいので、それをカバーするため低音や高音を強調する、いわゆる“ドンシャリ”と表現されるような、人工的な音が横行していた。
ところが、ZE8000の音はたいへん自然だ。不自然な強調感はまったくない。端正で、しなやかにして、音の粒子が稠密(ちゅうみつ)に詰まっている。まるで、目の前に生の演奏があり、そこから自然に音が滑り出てくる印象だ。
この「自然音」は、長年にわたる音響基礎技術開発の赫々(かっかく)たる成果だ。「どんな音がいいとされるのか」「人に感動を与える音とは何か」というベーシックな問題意識から、斯界の専門家と研究を深めていったという。音響企業の中に基礎研究所をつくったわけだ。
その結果、これまで業界で準拠してきたイヤホン用のリファレンス周波数特性のそれとは完全に異なる物理特性を発見。ブルートゥースは決して悪くないことも認識した。さらに信号処理の合理化、発音ユニット構造の改革、配線方法の改善などにより、圧倒的に自然な音の実現に成功した。
音楽が本質レベルまで掘り下げられ、十全たる表現力を持って正しく再生されるという意味で、あらゆるオーディオ機器を凌駕する勢いの貴重な音だ。
麻倉怜士
デジタルメディア評論家。デジタルシーン全般の動向を常に見据える。著書に『高音質保証! 麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
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※この記事はPen 2023年2月号より再編集した記事です。