飲めば飲むほどゆっくり旨くなる、飾り気がなくホッとできる癒やし酒【プロの自腹酒 vol.3】

  • 文:山内聖子
  • 写真:榊 水麗
  • イラスト:阿部伸二
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武勇/純米吟醸 なごやか

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骨太な酒質が特徴の「武勇」では珍しい軽快タイプ。口開けはピチピチしたフレッシュ感があり、端正な旨味が口に広がる。スッと消える穏やかな余韻もいい。時間が経つごとに口当たりがまろやかになり、ゆっくりと旨くなる。冷酒から燗酒まで幅広い温度帯で楽しめるところも魅力。どんな素材も受け止める懐の深さがあり、つまみはなんでも合う。特に、醤油や味噌を使った奇をてらわない料理を合わせるとよし。720㎖ ¥1,900/武勇酒造 TEL:0296-33-3343

数々の魅力的な酒場を手がける大野尚人さんは、仕事柄いつもアンテナを張り、さまざまな酒を口にしたいという。

しかし、プライベート、つまり普段の自腹酒(じばらざけ)は一貫して「心身にスッと入ってくる酒がいい」と教えてくれた。

「特に家酒では、味を探らなきゃならないような難しい酒ではなく、なにも考えずに飲めるものがいいですね。酒場の仕事が終わった後は、お客さんが想像する以上に疲れているんですよ(笑)。なので、ずっしりと重厚すぎる酒も飲みたくない。ゆる~く酔える酒がベストです」

たとえば、と大野さんが挙げてくれたのが、長年愛飲しているという日本酒「武勇」。この銘柄は、米の旨味たっぷりの質実剛健をイメージさせる男っぽい酒だが、数あるラインアップの中でもとりわけ軽快な「純米吟醸 なごやか」は、仕事後の晩酌に最適だと推薦する。

「素直に旨いと感じる日本酒です。武勇の定番酒よりもスッキリと後味が軽く、どの温度帯でも楽しめるので、疲れた身体でもラクに飲み続けられます。飾り気がなくて地味なところがいい。1日の終わりに飲むとホッとします」

つまみは、凝った料理よりも、素材を活かしたシンプルなものがいい。大野さんいわく、つくり置きの惣菜やぬか漬けなど、ありふれた家庭の味とよく合うというが、あえて特筆したいお気に入りのおともは厚切りにしたかまぼこ。化学調味料などの添加物を一切使用していない「鈴廣 特上かまぼこ」をひいきにしている。

「かまぼこに目覚めたのは『鈴廣』がきっかけです。嘘がない本物の旨味とプリッとした歯ごたえに唸りました。このかまぼこと『純米吟醸 なごやか』があれば、言うことありません」

気持ちよく酔えて「すぐに眠くなる」と、大野さんは笑いながらうれしそうに付け加えた。

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酒の旨味を引き立てる、上質な白身魚の逸品

大野さんがかまぼこに開眼したきっかけの「鈴廣 特上かまぼこ」は、完全無添加。なめらかな口当たりで、弾力のある歯ごたえもいい。生わさびや上等な海苔とともに。

大野尚人

1980年生まれ。「酒亭 沿露目(ぞろめ)」「酒肆一村(しゅしいっそん)」の他、2022年開業の「酒房蛮殻」「手盃(てっぱ)蛮殻」「可否灰殻(カフェハイカラ)」を経営。

酒房蛮殻

住所:東京都中央区月島1-25-7 1F(2F「手盃蛮殻」)「可否灰殻」
TEL:03-5859-5363

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※この記事はPen 2023年2月号より再編集した記事です。