脚本家・古沢良太が描く「信長」と「家康」とは。二つの大作で再解釈する戦国武将の姿

  • 写真:丸益功紀(BOIL)
  • 文:SYO
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12月28日発売のPen最新号「戦国武将のすべて」では、戦国武将たちの知られざる姿を解き明かしつつ、映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』、大河ドラマ『どうする家康』など、話題の大作の魅力をひも解く。さらに戦国時代を舞台にした人気漫画・ゲームなどの裏側や制作秘話に加え、軍師の働きや名城の見どころ、天下分け目の合戦模様や大名の組織運営まで、あらゆる角度から戦国武将たちの姿に迫る。

本記事では、その中から、映画『レジェンド&バタフライ』とNHK大河ドラマ『どうする家康』で脚本を務める古沢良太にインタビューした記事を抜粋・再編集して掲載する。

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古沢良太●脚本家1973年、神奈川県生まれ。2002年に『アシ!』でテレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞を受賞し、脚本家デビュー。以降、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』『探偵はBARにいる』のほか、ドラマ『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』といった作品を手がけ、シリーズ化に導いた。23年3月に「映画ドラえもんのび太と空の理想郷』が公開予定。

映画『ALWAYS三丁目の夕日』『キサラギ』や、ドラマ『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』といったシリーズ化された人気作品をはじめ、切れ味抜群の対話劇から重厚な社会派サスペンスまで手がける人気脚本家・古沢良太。実写やアニメなど、表現形態を問わない彼の次なる挑戦は、時代劇。映画『レジェンド&バタフライ』とNHK大河ドラマ『どうする家康』を立て続けに執筆する彼に制作背景を訊いた。

「『レジェンド&バタフライ』に関しては、最初にあったのは『政略結婚で結ばれた夫婦のラブストーリーをつくりたい』というアイデア。それをできるのが、織田信長と濃姫だった、という順番なんです。『どうする家康』もそうで、死と隣り合わせの時代に小さな国のプリンスとして生まれた青年が、本人は嫌で嫌でしょうがないのに無理やり戦わされ、強敵だらけの中で生き延びていく話を大河ドラマで1年間観たいという想いがまずあって、『それって家康だよね』という流れでした」

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『レジェンド&バタフライ』。東映創立70周年記念作品として製作された本作は、東映京都撮影所のほか、国宝の朝光寺や仁和寺でも撮影を敢行。大規模なセットも作品の世界観をかたちづくる重要な要素だ。監督はドラマ『ハゲタカ』や映画『るろうに剣心』シリーズを手がけた大友啓史。

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時代劇となれば「誰を描くか(WHO)」から「どう(HOW)」に発想が向かいそうなもの。しかし、古沢さんは意外にも「なにを描くか(WHAT)」から組み立てていった。このスタート時点でなかなかに異質だが、歴史上の人物に対する捉え方も独特で興味深い。

「僕はずっと不思議だったんです。戦国武将がどんな人かなんて皆知らないし、本人に会ったこともないのになぜ『あの武将が好きだ、尊敬している』と言うんだろう?って。それって結局、エンタメの中でキャラクター化されたイメージにすぎないんですよね」

実在の人物と、創作されたキャラクターというふたつの側面が混ざり合って出来上がった“偉人”たち。古沢さんによれば、信長が人気になったのは、戦後の高度経済成長のタイミングなのだとか。新世代の経営者たちが、徹底した実力主義で目標へと突き進む理想像を信長に重ねたことで、イメージが固まっていったのだという。

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『レジェンド&バタフライ』では木村拓哉が織田信長を演じる

「時代や状況にあわせて歴史上の人物をエンタメとして描いてきた末端に僕たちがいるのだとしたら、夫婦の物語として織田信長を捉え直すのもまた、その流れのひとつ。改革を断行する姿に憧れる人たちがいる一方、僕は『人間的な幸せを捨てて邁進しなきゃいけなかったんだろうな。でもその中で、これだけは守りたい、と思うものが好きな人だったんじゃないか』と感じました。あくまで、観点が違うだけだと思っています」

この言葉からうかがえるのは、歴史上の人物を英雄視するのではなく、自分事化する意識。古沢さんは、本作での信長と濃姫の関係を家族経営にたとえて解説する。

「地方のベンチャー企業を立ち上げた夫婦が偶発的な成功を収めてしまい、一気に全国的な企業になっていく中で取り巻く環境がどんどん変わっていく。そうして二人三脚でやっていた時代は遥か昔……という物語だと思って書いていました。歴史モノとして最低限のエクスキューズは押さえつつ、日本の歴史をまったく知らない海外の方もハードルを感じずに観られる作品にしたかったんです」

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濃姫役は綾瀬はるか

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現代にも置き換えられる構図は、知識の壁を取り払い、海をも越えて多様な観客に届く道を切り拓く。「自分の描きたい世界観や人間関係にできる限り登場人物たちをフィットさせる」と語る古沢さんは、もうひとつ重視した部分として「女性の描き方」を挙げる。

「時代劇って、とかく男臭い世界になりがち。時代は全部男が考えて、男が決めて、男がやってきたかのように解釈すると、『信長はこうだった』『家康は~』みたいに神格化されたキャラクターになってしまう。でも、その周りには同じようにその時代を乗り越えてきた人々がいて、彼らの人生に関わっていた。その中には、もしかしたら彼らよりも能力の高い女性もたくさんいたんじゃないか、という考えを前提につくりました」

その言葉通り、本作の濃姫は信長を頭脳でも戦闘でも打ち負かし、相棒として活躍。刺激を与え合う対等な関係性が心地よい。

「女性は表には出てこず、理不尽な仕打ちに耐えながら男性を支えていた――といったような、江戸そうこう時代以降の女性像、いわば『糟糠の妻』が美徳とされる“常識”に則って歴史モノの女性は描かれることが多い。でも、僕らの世代の作家はもっと自由に当時の女性を描くべきだと思います」

確固たる物言いに、つくり手としての矜持が見て取れる。古沢さんは続けて「だって、戦国時代なんてカオスですから。秩序がちゃんとないんだから、女性もどんどん前に出てきていたはずだと僕は思っています」と見解を述べる。

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『レジェンド&バタフライ』より

「当時の日本は、中央政府が力を失い、警察も機能しなくなったから地域のマフィアが仕切り出したような態。殺し合いが日常茶飯事でした。御上に言ってもなにもしてくれないから民衆もマフィアを頼りにするようになり、支持された彼らが各所で抗争を繰り広げる。そして、勝って縄張りを広げるマフィアたちの実力を政府が認め、権限を与えたのが戦国大名」

生きるか死ぬかの状況では奥ゆかしさなど二の次。本作の濃姫像に違和感がないのは時代の実情を的確に捉えているからだろう。古沢さんは「大友監督が歴史モノとしてのリアリズムを昇華してくれた」と感謝し、こう締めくくる。

「歴史モノって、実はいろいろな描き方が許容されると気づきました。信長然り、強固なイメージを逆手にとって自由に動かせるのは大きな発見でしたね」

古沢良太

脚本家
1973年、神奈川県生まれ。2002年に『アシ!』でテレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞を受賞し、 脚本家デビュー。以降、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』『探偵はBARにいる』のほか、ドラマ『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』といった作品を手がけ、シリーズ化に導いた。23年3月に『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』が公開予定。

『レジェンド&バタフライ』

2023年1月27日公開
監督/大友啓史 脚本/古沢良太 製作/東映
https://legend-butterfly.com

© 2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

pen1228_re.jpg Pen最新号の表紙は、映画『レジェンド&バタフライ』で織田信長を演じる木村拓哉の【通常版】と、原哲夫による『花の慶次』の【特装版】の2パターン。

「戦国武将のすべて」

2023年2月号増刊 No.537 ¥1,100(税込)

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