12月28日発売のPen最新号「戦国武将のすべて」では、戦国武将たちの知られざる姿を解き明かしつつ、映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』、大河ドラマ『どうする家康』など、話題の大作の魅力をひも解く。さらに戦国時代を舞台にした人気漫画・ゲームなどの裏側や制作秘話に加え、軍師の働きや名城の見どころ、天下分け目の合戦模様や大名の組織運営まで、あらゆる角度から戦国武将たちの姿に迫る。
本記事では、その中から『信長の野望』の記事を抜粋・再編集して掲載する。
Pen最新号「戦国武将のすべて」
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戦国ゲームの金字塔といえば、『信長の野望』だろう。なかでも印象的なのが、各武将のパラメーターやビジュアル。そんな同ゲームのキャラクターデザインの裏側に迫った。
歴史ゲームといえば従来は、単に合戦での勝敗を競うものと考えられがちだった。しかし1983年、軍事のみならず、内政や経済など多様な視点から天下統一を目指す、日本初の歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』が登場した。発売から40年近く経つ現在も高い支持を集め、シリーズタイトルは累計16作品に達する。
なかでも多くのファンを惹きつけるのが、各武将の緻密な能力値や、写実的で凛々しいビジュアルだ。いかにしてこのようなキャラクターデザインが生まれたのか。コーエーテクモゲームスの『信長の野望・新生』のプロデューサー、小笠原賢一さんに訊いた。
「まず、武将の能力値をゲーム内に登場させたのは88年の『信長の野望・戦国群雄伝』から。以降、シリーズによって多少変化はありますが、基本の能力値を『政務』『統率』『武勇』『知略』の4つに設定しています。その中で『政務』は織田信長、『統率』は武田信玄、『武勇』は上杉謙信、『知略』は毛利元就を最高値として、他の武将たちの数値を決めています」
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織田信長(おだのぶなが)
武田信玄(たけだしんげん)
上杉謙信(うえすぎけんしん)
毛利元就(もうりもとなり)
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続いて気になるのがグラフィック面。発売当初は、武将たちのビジュアルはドット絵だったが、現在では絵画のようなタッチで描かれた精緻なイラストが定番に。「技術が進化していくとともに、解像度も上がってきたので『もっとリアルな絵柄で表現しよう』という方向性へと変わってきました。また、『信長の野望・戦国群雄伝』からイラストレーターとして生頼範義(おおらいよしのり)先生に参加いただいたことで、現在のようなビジュアルイメージが固まっていきました」
武将たちの外見は残っている肖像画を参考にすることもあれば、史実をもとに類推することも。「『顔に傷があった』『鷲鼻だった』などの逸話を反映することもあれば、『この人は文官タイプだから知的な顔に』『この武将は戦働きが優れた人だから、勇猛な雰囲気で』『貴族だから公家顔に似せよう』と変化をつけることも。あとは、個人的な想い入れを反映することもあります。たとえば、私は武田家臣団の山県昌景が好きなのですが、『山県のビジュアルは、もう少し格好よくして』などといった注文です(笑)」
着物などは身分によって素材や模様を変えることもあれば、源氏を祖とする武将の場合は白、平氏の場合は赤などと色合いを調整することもあるという。さらに、これらのキャラクターデザインや設定は、新作が発売されるたびに少しずつ更新もされていく。
「ストーリーや数値設定、キャラクター描写は、基本は太田牛一が書いた『信長公記』を参考にしています。ただ、東京大学史料編纂所などの研究機関から新たな史実が出て、歴史認識が変わると、数値やビジュアルにも反映させています。以前だと今川義元は『桶狭間の戦い』の敗者としての印象が強く、全体的な数値を低く設定してましたが、近年の再評価を受け、数値をアップしました。また、大河ドラマや映画で特定の武将の人気が出た場合は、その役柄や俳優さんの顔を意識することもあります。あくまで参考に、ですが」
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最新研究やトレンドにまで配慮し、こだわり抜く理由。それは、プレイする人に違和感なく楽しんでほしいからだ。
「メディアなどを通じて『この武将はこういう人物だ』といったイメージが広まっているのに、ゲーム内で異なる武将像が現れると、違和感を覚えてゲームに没頭できませんよね。プレイする人が抱く武将のイメージを壊さないよう、各武将の設定やビジュアルは、できるだけその時代やトレンドに合わせて調整しています」
時代とともに、機能やシナリオのみならずキャラクターデザインも進化を遂げる『信長の野望』。その変遷を堪能することも、本作の醍醐味かもしれない。
「戦国武将のすべて」
2023年2月号増刊 No.537 ¥1,100(税込)