映画『THE FIRST SLAM DUNK』が好調だ。12月3日に公開されると、公開9日間で観客動員が約200万人、興行収入は30億円を突破した。
『スラムダンク』の連載とアニメの放映は1996年に終わっており、今回は26年ぶりの新規アニメ映画となった。国内におけるシリーズ発行部数は1億2000万部を超える超人気作である。映画では監督・脚本を原作者の井上雄彦、アニメーション制作は東映アニメーション/ダンデライオンアニメーションスタジオが担当した。
筆者は原作の『スラムダンク』の大ファン。小学生のころに『スラムダンク』を読んでバスケットボールを始めたという、よくいるバスケ部員の一人だった。原作は何度読み返したか分からない。好きなキャラクターは三井寿。ミッチーの少し陰のある造形が好きだった。とはいえ、世代が少し違い、アニメは見たことがなかった。そのため、今回話題となった声優の交代はそもそも気にならなかった。そのうえで、いち原作ファンとして感想を述べたい。
まず、冒頭から驚いた。原作ではそこまで主役級の扱いはされなかった宮城リョータのアナザーストーリーから始まる。舞台は沖縄。リョータの兄、ソータとの1on1。リョータは兄には勝てないが、それでも向かっていく。1on1を切り上げ、友達と釣りに行くソータ。リョータは怒り、「帰ってくるな!」と叫ぶ。そして、父を亡くした家族にさらなる悲劇が起こる…。
原作にはなかった設定だが、宮城リョータのキャラクターにとても奥行きが出るストーリーだと思った。なぜガードなのか、なぜドリブラーだったのか、そしてなぜバスケを始めたのか。それは沖縄という土地で育ったバックグラウンドがあったのだ。物語に説得力が増していた。
ストーリーの追加だけでなく、本作全体の主人公が宮城リョータに設定されている。桜木花道ではないのだ。それにまず驚いたし、設定の変更は成功していると思った。原作を読んでストーリーをすでに知っているファンでも楽しめるような作りになっているのだ。
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映画は山王工業との死闘を描く。
アニメーションの躍動感がすごい。井上雄彦の原作のタッチを残しつつ、キャラクターたちはとてもなめらかにバスケの動きをする。原作の世界をそのまま見ているようで、すぐに引き込まれた。アニメーションを見ているだけでも楽しい作品になっている。東映アニメーション/ダンデライオンアニメーションスタジオの高い技術力がそれを可能にしたのだろう。
音楽の使い方もいい。オープニング主題歌はThe Birthdayが担当し、エンディング主題歌は10-FEETの“第ゼロ感”。劇中音楽は、武部聡志と10-FEETのTAKUMA(Vo/Gt)が担当している。映画館ならではの低温がよく響く。バスケットボールをドリブルする「ダムダム」という音が体に響いて心地いい。
ハイライトのシーンは音楽とともに繰り広げられる。そのフリが効いているからこそ、クライマックスの無音が際立つ。緊張感が劇場にみなぎり、思わず息を止めた。原作のマンガを読んでいる際にも同じように息を呑んだのを思い出した。マンガの読書体験とシンクロするという、稀有な映画体験になった。
流川楓、三井寿、赤木剛憲の活躍も嬉しい。流川のスラムダンクは見ていて思わず声を上げたくなるほどの迫力。三井寿は名言を連発しながら、「シュパッ」と気持ちのいい音を出してスリーポイントを決める。赤木が自分の役割を受け入れ、黙々とスクリーンに入る姿には心を打たれる。
そして、桜木花道だ。高い身体能力を生かした跳躍は、アニメだからこそ描ける躍動感がある。リバウンドでチームを引っ張る姿にはやはり感動した。主人公は宮城リョータに譲っても、彼の活躍がなければ『スラムダンク』じゃない。リバウンドひとつであれだけ人を感動させるのだから、やはり彼は主役だ。
原作のファンとして、十二分に楽しめた。改めてもう一度マンガを読みたくもなった。読者には、すでにヒットを飛ばしている本作を見て、原作マンガを読む年末年始をオススメしたい。
『THE FIRST SLAM DUNK』
原作、脚本、監督/井上雄彦
演出/宮原直樹、北田勝彦、大橋聡雄、元田康弘、菅沼芙実彦、鎌谷悠
キャラクターデザイン/井上雄彦、江原康之
声の出演/仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太ほか
2022年 日本映画 124分 全国公開中
https://slamdunk-movie.jp/