裁断くず再生のワークウエア、古着マーケット……渋谷パルコで知るファッションのSDGs【着る/知る Vol.144】

  • 写真・文:一史
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ほとんど着ていない服、着なくなった服。それらを販売する慣習が当たり前になれば、ゴミとして捨てる量は大幅に減る。人がミシンを踏んで手間を掛けて縫った服が、長い寿命で生き続けることにもなる。現在は古着が大ブームとされるが、未来永劫まで人気が定着することが大事なのかもしれない。リサイクル発想が標準になれば、誰もが気軽に参加できる循環システムが確率されるだろう。消費者であるわたしたち一人ひとりが、持続可能な社会づくりの一員になる。

心をリフレッシュする新品の服を買うときも、無駄をなくす努力をしているブランドから選びたい。ファッションアイテムはいまや、部屋に置く家電に等しいほど高価になった(グレーゾーンの生産による低価格品を除く)。セーター1着が、上等な椅子一脚を上回ることも珍しくない。そんな贅沢品は社会的意義があり、さらに長く愛用できるデザインや品質であるべきだろう。

若者のほうが大人世代より持続可能な社会への関心が高いとされるいま、日本のファッションシーンを見つめる東京・渋谷パルコがSDGsに力を入れている。2022年4月に先行して古着マーケットの「VCM MARKET BOOTH(ヴイシーエム マーケット ブース)」をオープン。その後順次出店を増やし、11月の再リニューアルで雑貨や家具を加えて完成に近づいた。

新規出店は4階に集約させ、SDGsフロアとでも呼べそうな充実ぶりだ。当ファッション連載「着る/知る」が今回取り上げるのは、9月にオープンした「ネストローブ/コンフェクト 渋谷店」。ネストローブ、コンフェクト、アップサイクルリノの3ブランドで構成された店である。なかでも注目したのが、縫製工場で出た裁断くずを糸に戻して布にした新時代のブランド「アップサイクルリノ(UpcycleLino)」。再生繊維の素朴な風合いを活かした服は、まるでビンテージウエアかのよう。服好き男性をワクワクさせること間違いなしの、こだわりのアイテム群だ。
※記事終了後もスクロールで未使用分を含む写真が表示される。

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縫製工場を持つ強みを活かしたアップサイクルリノ

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ネストローブ/コンフェクト 渋谷店。アップサイクルリノをメインにした合同ショップ。

全国に多くの直営店を持つネストローブのルーツは縫製工場。服のパーツをカットするとき出た裁断くずはこれまで利用価値がなく、やむなく処分されてきた。それを最大限に活用するプロジェクトがアップサイクルリノだ。国内生地メーカーと共同開発している。

裁断くずをさらに細かく裁断し、粉砕して綿(わた)に戻す。それから再び糸を紡いで生地にしていく。ただし、
「再生繊維だけだと弱い生地になりますから、丈夫なオーガニックの超長綿を混ぜて製品にしています」
(ネストローブ、アップサイクルリノ チーフディレクター北之坊敏之)

手触りも風合いも抜群によいのは、高級服に使われるオーガニックコットンの超長綿がなせる技だろう。見た目は糸の紡ぎ技術が稚拙だった古い時代のビンテージのようでも、クオリティは現代の一級品。大人のデイリーウエアにふさわしい出来栄えだ。工場が得意としている麻素材が大半のアイテムに使われていることも、ビンテージウエアのムードに大きく貢献している。手に取れば、2021年度「グッドデザイン賞」を受賞したブランドの実力がよくわかるだろう。

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「SLOW MADE IN JAPAN」はネストローブのスローガン。

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服のパーツを切り抜いた残りの裁断くず。布を何枚も重ねて一気に切り抜くためこのような形状に。

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裁断の余り布を細かく裁断し、綿に戻してから糸に。その糸と新品の糸を混ぜて再生布を織る。

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麻混の独特なチノクロス生地で仕立てた男女兼用ジャケット。ベースになったのは1940〜50年代のUSフィールドジャケット。¥28,600(税込)

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糸ムラの風合いがビンテージ感を醸すタートルネック長袖Tシャツ。ワイドシルエットでモダンな着こなしができる。¥15,400 (税込)

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天然の墨を使い、退色したようなグレーに染められたショップ限定スウエットシャツ。¥17,600(税込)

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夏でも穿きやすい10オンスの薄手デニム。緯糸に、色や柄付きの裁断くずを糸に戻すことで杢調グレーになった糸を使用。¥22,000(税込)

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デニムの背ウエストはゴム仕様で体型を問わずフィット。ベルトレスで穿く現代的なパンツの穿き方にも対応する工夫だ。

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メンズのコンフェクトの企画やバイヤーを務める新谷陽平の私服コーデ。ウール20%混のコットン・リネンシャツを主役に。

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素朴で優しい生地の風合いを活かすたっぷりとしたシルエット。両脇に大きめのパッチポケットがつくアウター感覚のシャツ。 ¥31,900(税込)

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服にできない最後に残った裁断くずを捨てずに利用するため企画した、布素材が原料のハンガー。5本セット ¥1,650(税込)

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店内には工場の残布で花をつくる「ロベコ(LOVECO)」とコラボした花束も。ブーケ小 ¥6,600(税込) ブーケ 大 ¥13,200(税込)

「やるからには徹底的に」とチーフディレクターの北之坊さんが語るように、工場で出た裁断くずをほぼ完全に利用したモノづくりを行うアップサイクルリノ。オーバーサイズらの時代性も考慮した服はファッション性が高く、買い得なプライス設定も気が利いている。自社工場を運営するバックボーンがあればこそのブランドのあり方だ。

ネストローブの関連ブランドは女性に知名度が高く、男性にはまだ馴染みが薄いかもしれない。20世紀初頭〜半ばのヨーロピアンワークウエアや、アメリカのミリタリーウエアを好む人の基本ワードローブになる見逃せないブランドである。

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2022年2月からはじまった渋谷パルコの4階リニューアル

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古着マーケット「VCM MARKET BOOTH」のスペースを拡張させて11月にオープンした「VCM GALLERY」。期間限定イベントに活用される。

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オレンジ床のエリアが既存の「VCM MARKET BOOTH」。

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「上品で個性あるセレクト」を掲げる店「Iwaku Vintege」が11月に「VCM MARKET BOOTH」に新規出店。

いまのファッションシーンに欠かせない古着の導入からスタートした、渋谷パルコのSGDsフロアづくり。まず2月にフロアリニューアル第一弾としてオープンしたのが、古着マーケットの「VCM MARKET BOOTH(ヴイシーエム マーケット ブース)」。このエリアを拡張させて11月に増設されたのが「VCM GALLERY(ヴイシーエム ギャラリー)」である。ポップアップスペースとして古着ショップが期間限定で出店したり、今後はアーティスト作品なども展示されていく予定だ。

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4階フロアに新規出店した、アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group」の店「金三昧」(右側)、廃棄家具を再生する「GMKR(ゴミカラ)」(左側)。

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4階にはポップアップコーナーも誕生し、12月26日(月)までは東南アジアのヴィンテージ雑貨の「tay」が出店中。

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オレンジのパイプ外装が、SDGsに基づく店が集まるエリアのシンボル。

渋谷パルコが独自の構成を行うエリアは、建築分野で話題を呼ぶ「SKWAT」がデザインを手掛けている。施工途中で止めた工事現場のような構造はSKWATの作風であり、拡張や撤収しやすさにも大きな役割を果たしている。

SKWATエリア以外にも記事前半で紹介した「ネストローブ/コンフェクト 渋谷店」をはじめ、すべてのデニムを環境に配慮されたオーガニックコットンに変更した「ヌーディージーンズ」、ビンテージ家具のパイオニアである「ミッドセンチュリーモダン」らが新たに集った。渋谷パルコの4階フロアは持続可能な社会に向けた各社、各ブランドの試みの集合体になりつつある。

ただしフロアの店すべてがこのコンセプトに基づく店ではない。訪れたらゆっくりと1店1店を巡り、持続可能な社会とリンクするアイテムを探してはいかがだろうか。

nest Robe

https://nestrobe.com

渋谷パルコ

https://shibuya.parco.jp

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【画像】裁断くず再生のワークウエア、古着マーケット、渋谷パルコで知るファッションのSDGs【着る/知る Vol.144】

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高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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