【Penが選んだ、今月の音楽】
『クオリティー・オーヴァー・オピニオン』
米カリフォルニア州ロサンゼルス。この世界随一のエンターテインメント都市を「LAはバッドテイストのメッカ」と称した著名人がいたが、なるほど言い得て妙である。映画や音楽の他、ファッションや建築の分野でも独自のスタイルを生み出し続ける街には、確かに悪趣味スレスレのものも数多い。それすらにも存在価値を見出すのは、LA社会が内包する多様性の証しだろう。
そんな多様性を背景に、LAには近年、ヒップホップをはじめとする異ジャンル人脈との交流を積極的に行う新世代ジャズ勢を中心とするシームレスな音楽シーンが確立している。その代表者として超絶ベース奏者のサンダーキャットを思い浮かべる人も多いだろうが、彼をして「ロサンゼルスで最も偉大なミュージシャンのひとり」と言わしめるルイス・コールの新作『クオリティー・オーヴァー・オピニオン』を聴けば、代表者の変更を考える人も多く現れるに違いない。
生粋のLAっ子であるコールは、南カリフォルニア大学でジャズを学び、ドラマーとして数々のジャズの偉人と共演を重ねた敏腕。一方でエレクトロ・ポップ・ユニット、ノウワーとしても活動し、LAの多様性とジャズを体現したような超人マルチプレイヤー/プロデューサーだ。そんな彼の4年ぶりの新作は、自宅のスタジオで多重録音したDIYサウンドが中心。それも録音した100曲を継ぎはぎした変態ファンクとクラシックの香り漂うロマンティック・バラードが混在する破天荒な傑作なのだ。
サックス奏者サム・ゲンデルらの協力を仰ぎながらも、ストレートなジャズは皆無。それもまた「ジャズの本質は混じりっ気なしの自由だ」と考える彼ならでは。ジャズから学んだ自由を礎に多様性とDIY魂を見せつけたハイパーポップでファンキーな新作にただただ圧倒される。
---fadeinPager---
※この記事はPen 2023年1月号より再編集した記事です。