三浦透子インタビュー「歌う時も演じる時も、自分の言葉として届けたい」【創造の挑戦者たち#72】

  • 写真:野村佐紀子
  • 文:細谷美香
  • スタイリング:佐々木翔
  • ヘア&メイク:秋鹿裕子(W)
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Toko Miura●1996年、北海道生まれ。『ドライブ・マイ・カー』(2021年)で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞など数々の賞を受賞。『天気の子』(19年)の主題歌にボーカリストとして抜擢され歌手としても活躍している。

アカデミー賞国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』では、真っ赤なサーブを運転する寡黙なヒロインに。メディアの闇に果敢に切り込むドラマ『エルピス│希望、あるいは災い│』では、物語のキーパーソンを。強さと脆さを併せもつ眼差しで観る者の心を一瞬にしてつかんでしまう女優、三浦透子は、静かに響く透き通った歌声をもつ人でもある。新海誠監督の『天気の子』でその声を聴き、鮮烈な印象を受けた人も多いことだろう。この冬にリリースされるセカンドミニアルバム『点描』には、多彩な作家陣による楽曲が収録される。

「どなたに曲をお願いするのかという段階から関わらせていただいています。もちろんそれまでの作品を聴いて素敵だなと思ったことがベースにはあるのですが、私のセンサーが反応するのは実際に会って、人としてコミュニケーションをとった時なんです。話しているとなにかが共有できて、自然に言葉が出てくる。そういう人と出会えた時は純粋にうれしいし、一緒にお仕事がしたいなと思います。これから先、もっと積極的に制作に関われるようになるためにも、いまはたくさんの人とのコラボレーションの中で、いろいろなことを学んでいるところです」

6歳から子役としてこの世界に入り、女優のキャリアを積み重ねながら、彼女の声に惚れ込んだタナダユキ監督の誘いによって歌手活動をスタートさせた。コラボレートする相手によって、いくつもの発見があることがなによりも楽しいと語る。

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「自分が歌いやすいキーよりも上のオーダーをいただくことがあって、挑戦してみると意外とこの声も素敵かも、って思えたりするんです。自分がやりたい曲だけをやっていたら、気づけなかったことかもしれません。ジャンルやアレンジに関しても同じで、私はこういうものも好きになれるんだなと思う瞬間があって、私の力だけではたどり着けなかった場所や知り得なかった自分を発見できることがすごくうれしい。声が楽器だとすると演奏方法が少しずつ増えている感じがして、自分の声がより好きになってきた気がします」

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たくさんの価値観に触れて、自分を更新していきたい

ミニアルバムでは作詞にも初挑戦した。既に完成していたメロディを聴きながら「音にハマる歌詞を探していく言葉遊びが楽しかった」と、制作の過程を振り返る。「書いていただいた曲も自分が書いた曲も、すべて自分のものにして自分の言葉として届けたい。これは歌う時だけではなく、役者としての活動にも相通ずる考え方かな、と思っています」

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ジャケット¥89,100/ビューティフルピープル(ビューティフルピープル 青山店☎03-6447-1869) その他スタイリスト私物

公開を控える初主演映画『そばかす』では、主題歌「風になれ」の歌唱も担当。作詞作曲を羊文学の塩塚モエカが手がけた。ラストシーンを撮った時に「モエカさんにお願いしたいという考えが浮かんだ」のだという。

「撮影がすべて終わってから、モエカさんとお話する時間を設けていただきました。映画のために生まれる曲だけれど、主人公の佳純が歌っているというわけではなく、あくまで私自身の曲として出すもの。だから、彼女のことも自分のこともたくさん話してつくっていただきました。最後に聴くと、この映画がもっと好きになれる曲ができたと思います」

三浦が演じた佳純は、他者に恋愛的に惹かれないアセクシャル。オファーを受けた理由について、この映画がもつメッセージに共感できたからだと語る。

「自分はマイノリティなんじゃないかと感じたことがある人に、それを受け入れてくれない社会が間違っているのだから、疑問をもったり声を上げたりしてもいいんだよ、と勇気を与えられる気がして。ありのままの自分を受け入れて、心が軽くなる作品にできるんじゃないかと思ったんです。自分と同じような価値観をもつ人は、この世界のどこかにきっといる。そう信じられる映画が完成したと思います。たくさんの感情や価値観に触れて学びながら自分が更新されていく作品に、これからも出合っていきたいです」

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WORKS
映画『そばかす』

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恋愛感情がないことに不安を抱きながら自分のペースで歩いてきた30歳の佳純。母がセッティングしたお見合いで友達付き合いを望む男性と出会うが……。三浦透子にとって本作が初主演映画となる。12月16日より全国公開。

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ミニアルバム『点描』

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羊文学の塩塚モエカが楽曲を制作、音楽プロデューサーのESME MORIがアレンジを担当した、映画『そばかす』主題歌『風になれ』の他、YeYe、有元キイチ、小田朋美らの楽曲を収録したミニアルバム。12月14日に発売。

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ドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』

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落ち目のアナウンサーと若手ディレクターらが冤罪事件を追う。脚本・渡辺あや、監督・大根仁。三浦演じるヘアメイクのチェリーが意味深な表情を見せるエンディングも話題。フジテレビ系列にて毎週月曜夜10時に放送中。

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※この記事はPen 2023年1月号より再編集した記事です。