1850年、アメリカの運送業からスタートしたアメリカン・エキスプレス(以下アメックス)。現在180カ国以上でクレジットカードやペイメントサービスを展開するグローバル企業だ。「日々、世界最高の顧客体験を提供する」をモットーに、世界中のカード会員と加盟店をつなぎ、地域の社会貢献に取り組んでいる。
そんなアメックスが2010年にアメリカで開始した、街の小規模なビジネスを応援するプログラム「ショップ スモール」。街のお店(スモールショップ)の挑戦や成長をサポートすることで、地域社会の活性化を促そうとするものだ。日本でも17年から横浜を皮切りに、全国15万店以上の規模で展開している。今年新たに設立された「ライズ・ウィズ・ショップスモール」は、カード会員参加型の企画で、初年度となる今年は女性オーナーを対象にした二つの応援プログラムを設け、参加者を募集。去る11月24日、各プログラム受賞者が決まりアメリカン・エキスプレス東京オフィスにて授賞式が行われた。
この日、全国から多数の応募者の中から選ばれた13名の受賞者が一堂に会し、受賞の喜びを分かち合った。年齢も職業も地域もさまざまな女性たちは、それぞれのバックグラウンドを紹介し合い、情報を共有した。瀬戸内の小さな島で石窯のパン屋を立ち上げた女性、地域に眠っていた地酒を復活させ、ネットショップでの発信を試みる女性、乳がん手術経験者のための美しいケアブラジャーを開発した女性など、起業に至ったストーリーには強い思いが込められていた。
受賞者は二つのプログラムのどちらかが選べる仕組みになっている。一つは200万円のビジネス支援金、もう一つはプロの講師によるメンタリングが受けられるというもの。多くの受賞者が口にしていたのは「ビジネスに関して相談できる人が周りにいない」「どのようにして情報発信したらいいのかわからない」というものだ。メンタリングを受けた受賞者は、経営のノウハウや精神的なサポートをしてもらえたという。授賞式はビジネスに邁進している仲間との交流の場となり、ショップスモールの輪が未来へ広がる可能性を感じさせた。
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スモールビジネスが地域を輝かせる
ライズ・ウィズ・ショップスモールの企画・運営を手がけた加盟店事業部門 マーケティング アジア太平洋地域 副社長の津釜宜祥さんに、今回の取り組みの背景を聞いた。「現代では毎日の買い物をする際、スーパーマーケットや駅ビルなど便利な場所で済ませてしまうことが多いですよね。どこの街にもあるチェーン店だけで買い物をしていると、だんだんその街の特性は失われてしまうんです。個性的なお店で買い物をすることが、ひいては街を活性化し、自分の住んでいる街の相対的な価値をあげるということを伝えたいですね」
そもそもショップスモールの取り組みが最初にアメリカで始まったのはリーマンショックによって経済が低迷していた時期。経済における小規模ビジネスの占める割合は大きく、これらの店舗が打撃を受けると、経済自体が低迷してしまう。そこでカード会員である消費者と加盟店をつなぐアメックスが、スモールビジネスを応援する取り組みを始めたというわけだ。
今回はショップスモールの中でも女性オーナーに特化したプログラムを立ち上げたが、その背景にはアメックスが社をあげて取り組むダイバーシティ インクルージョンの考え方がある。「弊社では組織に多様な人材を雇用し、入社後も彼らの声に耳を傾け、経営方針の中にそれを取り込む努力をしています。近年ではこれをさらに進めてダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を掲げています。エクイティとは公平性のことで、職場において、多様な人たちが平等に扱われているかどうかを精査するものです。具体的には女性のネットワークやLGBTなどの多様性を尊重し、偏見をなくして人事の査定や賃金格差の是正に取り組んでいます」
ショップスモールは経済効果のみならず、多様な人々が輝けるようにと考案されたシステムだ。「日本は女性の起業家がとても少ない。ましてや地方になるとその数はわずかです。受賞者の選定にあたっては、新しく面白いことをしていて、地域にインパクトを与えている経営者を選ばせていただきました。ロールモデルとなるような女性を応援することで、若い人たちがチャレンジしやすくなる環境をつくりたいのです」。2020年、アメックスが世界11カ国の女性に「自分のキャリアと向上心を大切にしているか」についてアンケートを行ったところ、日本は最下位だったという。今回のような取り組みによって、女性が誰でもキャリアに対する夢を積極的に語れるような社会になれば、それを突破口にさまざまなマイノリティの人にも扉が開くだろうと津釜さんは考える。
「いま企画しているのは、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンをテーマにしたステッカーやPOPを加盟店に設置してもらうことです。こうすればLGBTのカップル、小さな子どもを連れた人、障がいを抱えた人など多様な人を受け入れてくれる店が一目でわかる。この根底にあるアイデアは“Always Welcome”。加盟店とお客さまとの間にフレンドリーな関係をつくり、ビジネスインパクトを起こせればと思っています」
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受賞者紹介
受賞した13名の中から、Penが注目した3名の活動を紹介する。
土木田商会 細野有里さん
明治13年、浜松町に創業した老舗の文具店「土木田商店」を一新し、「土木田商会」として先代より受け継ぐことになった細野有里(ほそのゆり)さん。外資系のラグジュアリーブランドに勤務し、国内外の店舗運営に携わってきた経験を活かし、新しい店舗運営を模索している。「日本の文房具は世界で日の目を見るパワーをもっていると感じます。ECサイト経由で弊社の製品を知った世界中のファンに、東京観光の際は店舗に足を運んでもらいたいです。ライズプログラムの受賞によって、自分が思い描くビジョンに対し、背中を押してもらった気がします。従来のやり方を踏襲するだけでなく、時流に合ったやりたいことにどんどん挑戦していくつもりです」。再開発によって変貌を遂げる浜松町エリアで、地域の経済活動に最適なツールを提供する場になりたいと意欲を見せる細野さん。老舗ののれんをどのようにアップデートしていくのか、楽しみだ。
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アトリエマッチャ 長尾千登勢さん
広告代理店のPRディレクターとして日本の企業や文化の海外発信業務に携わってきた長尾千登勢(ながおちとせ)さん。趣味として10年以上続けてきた茶道の経験から、茶道用のプレミアムな抹茶のおいしさと茶文化を世界に発信すべく、日本橋人形町に抹茶カフェ「アトリエマッチャ」を開業した。宇治の老舗製茶問屋、山政小山園と提携し、ハイグレードな抹茶を使ったオリジナルメニューを開発。抹茶をカジュアルに楽しむことを提案している。ライズプログラムを受賞し、メンターによるカウンセリングを受講した。「抹茶や茶文化を広めたい思いは強くあったものの、経営者としての経験やノウハウがまったくなかったので、ビジネスとして成長させるためになにをすべきかがわからず、悩んでいました。メンターとのディスカッションによって、自分のやりたいこと、進むべき方向性がクリアになりました」と話す。今後は海外や国内インバウンドに向けて茶の湯のおもてなしを発信すると同時に、ビジネスを継続・成長させる業務にも向き合っていきたいと語る。
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つながりハウスみづほ/名前のない花屋 大橋多加予さん
愛知県知多半島にある半田市の港町に惹かれた大橋多加予(おおはしたかよ)さん。町を活性化するイベントに携わったことで魅力的な空き家物件に出合い、そこを地域のコミュニティスペースとして「つながりハウスみづほ/名前のない花屋」をオープンさせた。現在はイベントや講座、マルシェなど幅広い年代の人々の交流の場となっている。12部屋ある屋敷の一室では庭師の夫と共にボタニカルアートを制作。6人の子どもを育てながら、周囲の協力を得て事業を展開している。「ライズプログラムでは、メンターの方とお話しする機会を得て、毎回新しい発見がありました。いままでやりたいと思いながら一歩踏み出す勇気がなかったことも、チャレンジできるように背中を押してもらいました」と大橋さん。子どもが増えるたびに、周囲の人々に頼ることを学び、人にも植物にも“おかげさま”であることを感謝しているという大橋さん。彼女の生き方そのものが、多くの人々に元気を与えている。
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