それは警告か、それとも諦めか…現代的テーマを含む衝撃ホラー『MEN 同じ顔の男たち』ほか【今月の映画3選】

  • 文:児玉美月(映画執筆家)
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今月のおすすめ映画①『MEN 同じ顔の男たち』
それは警告か、それとも諦めか。現代的テーマを含む衝撃ホラー

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劇中には、女性が裸でしゃがんだ時に股が露出された様子を描写した石造りの彫刻「シーラ・ナ・ギグ」や、男性を表す樹木のような姿をした民俗学的な生き物「グリーンマン」などが登場。物語を深めるいくつものメタファーやモチーフも、本作の面白味のひとつだ。

SF映画『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド監督が、気鋭のスタジオA24と再びタッグを組み、今度はホラー映画で独自の世界観を発揮する。

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© 2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

主人公のハーパーは、離婚するなら命を絶つと脅してきた夫の死後、療養のためにロンドン郊外のカントリーハウスを訪れる。管理人が親切に出迎えてくれるが、全裸の不審者や被害を矮小化する警察官、夫の死について責め立ててくる神父など、ハーパーに脅威を与える男たちが次々と現れ……。

これらの登場人物を通して、性的ハラスメントをはじめ、相手の心理を操作して虐待するガスライティング、男性が女性に見下した態度で説明するマンスプレイニング、社会通念に基づいて女性の性行動を非難するスラット・シェイミングなど『MEN同じ顔の男たち』は数多くの現代的なテーマを描き出す。

この映画において最も恐ろしく、独自性を放つのは、彼女が出くわす男たちが皆「同じ顔」をしていることにあるだろう。それは社会的、文化的に培われた男性性に毒された男たちは均一化されてしまうという警告の暗示なのだろうか? それともハーパーが「男なんてみんな同じようなもの」と諦めている心象風景を表した比喩なのだろうか?

宗教的な寓話とルックはダーレン・アロノフスキーの『マザー!』を彷彿とさせ、デヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』のように青々とした芝生に蠢く不気味さを孕み、ラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』からの忠実な引用を厭わない本作。とくに終盤に訪れるVFXを駆使した衝撃の展開は、賛否両論を巻き起こすに違いない。未知数の世界観へと観客を巻き込み、幾重もの意味を織り成してゆくこの映画がどんな「顔」をしているのかは、あなたの瞳に委ねられている。

『MEN 同じ顔の男たち』

監督/アレックス・ガーランド 
出演/ジェシー・バックリー、ロリー・キニアほか
2022年 イギリス映画 1時間40分 12/9よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画②『グリーン・ナイト』
14世紀の叙事詩を翻案した、映像的工夫に富んだファンタジー

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© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

『さらば愛しきアウトロー』などで高評価を集めるデヴィッド・ロウリー監督が、14世紀の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を翻案。まだ騎士ではなく語るべき物語をもたない青年ガウェインは、「緑の騎士」から首切りゲームを仕掛けられる。そこからお喋りするキツネや道行く巨人、小悪党たちと出会う冒険へと出かけてゆく。カメラが360度回転してガウェインが骸骨と化す撮影など、時空間を自在に操るロウリーの手腕は本作でも健在。

『グリーン・ナイト』

監督/デヴィッド・ロウリー
出演/デヴ・パテル、アリシア・ヴィキャンデルほか 
2021年 アメリカ・カナダ・アイルランド合作映画 2時間10分 TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③『あのこと』
中絶が違法だったフランスを舞台に、一人の少女の選択を描く

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© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILM

本年度のノーベル文学賞を受賞した作家、アニー・エルノーの原作を映画化。ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞に輝いた。中絶が違法だった1960年代のフランスを舞台に、望まぬ妊娠にみまわれた少女アンヌの12週間が描かれる。選択肢のないアンヌは闇ルートで子どもを堕ろそうと試みるが……。カメラはアンヌのかたわらからいっときも離れず、女性の身体や人生がいくつもの「運」に大きく左右されてしまう悲劇を観客に追体験させる。

『あのこと』

監督/オードレイ・ディヴァン
出演/アナマリア・ヴァルトロメイ、サンドリーヌ・ボネールほか
2021年 フランス映画 1時間40分 12/2よりBunkamura ル・シネマほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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※この記事はPen 2022年1月号より再編集した記事です。