創業の地・北海道砂川市でまちづくりに取り組むブランド「SHIRO」。そこにかける想いを、今井浩恵会長と福永敬弘社長に訊いた。
――SHIRO(シロ)の新工場と付帯施設を市民とともにつくり、過疎化に直面する砂川市を世界から人が集まる場所にする「みんなのすながわプロジェト」。企業が社会課題の解決に乗り出す事例としても注目される、大きなチャレンジですね。
今井 そうですね。これまで民間企業は民間として社会を豊かにし、行政は行政として社会課題に向き合ってきたと思うんです。でも、行政では届かない部分、民間では届かない部分があって、それがいま、地球温暖化から不登校まで、あらゆる問題を引き起こしています。民間企業でもソーシャルにもっと食い込んで、課題を解決したっていいじゃない?と。
――ここまで率先して行動する企業は少数派ではないでしょうか?
今井 仲間が少ないとは感じています。ただ、SHIROは食用に流通しない高栄養価の副産物や規格外品をいただいて製品を開発し、生産者さんにお金を払うというものづくりをしてきたブランド。そもそもの企業理念である「世の中をしあわせにする」が社会課題と向き合うことも含みます。それをもっと進めようと感じたのは「みんなのすながわプロジェクト」立ち上げのタイミングでした。
――原動力はなんでしたか?
今井 百年続くブランドでありたいと思った時、いま人口減少が続いている砂川市が百年後もあるとは限らない。砂川が残るために何をすべきかを、ブランドとともに考えなくてはと気づいたんです。
――地域がなくなってしまったら、他の場所に移転することもできると思いますが、その選択はなかったのでしょうか?
今井 それはSHIROが生まれたところだからでしょうね。生まれた土地の水や空気がブランドをつくり、世界に展開できたので。生まれた土地の水や空気がブランドをつくり、世界に展開できたので。
福永 物流や雇用を考えて、砂川の工場を一都三県に移転する案もあったんです。でも、議論し尽くした先になお、理屈抜きに「そこで生まれたから」という事実が残った。今後10年かけて、砂川にリソースを投資していこうと。
――10年とは長いですね。
福永 ソーシャルなまちづくりって、自分たちの思惑だけでは進められない。いろんな人のいろんな想いや考えを吸収するには、顔を突き合わせてとことん時間をかけないとかたちにできないんです。
――それがワークショップなのですね。既に10回以上も行っていますが、印象的だった出来事は?
今井 当初は工場の付帯施設を子どもが集まる場にしようと考えていたのですが、「いや、大人だって居場所がほしいんだよ」という声がありました。砂川で暮らしていると、車の中くらいしか落ち着ける場所がないなんてこともある。それで、大人も子どももみんなに必要な場所にしようと、設計コンセプト自体を変更しました。
――工場の稼働が23年1月、付帯施設は5月頃の完成予定ですね。
今井 完成というのはないんですよ。オープンしても広場にベンチもモニュメントもなく、ランドスケープは中途半端かもしれない。市民と一緒に種をまいた植栽が、30年、50年かけて景観になっていきます。大事なのは、変容できる施設にすること。完成したら終わりではなく、そこからまたつくっていく自由度をもちたい。
福永 将来的には、世界中からSHIROのファンが訪れて、それを市民が誇りに思うようなまちにしたい。その上で、地域創生のポイントは移住者に選ばれること。起業したい人が砂川に移住してくるようになれば、まち全体の意識が変わる。いま、芽が出てきている地域創生の事例は、どこもそうです。
今井 まちづくりの立ち上げをSHIROがやり、砂川の地に志をもつ若い人たちが集まるのなら、10年後には施設とその運営を含めて受け渡してもいいという想いで始めました。この地域創生が瞬間的に終わってしまわないためにも、将来的に渡せる人を自分たちで育てていくべきなのかもしれない。人も含めてのまちづくりなんだなと、学んでいます。
福永 最初はプロボノやワークショップからの参加だとしても、本気でジョインする人に僕らが想いを手渡して、やがて自走し始めれば、それがいちばんいいかたちかもしれない。
今井 そうですね。若い人がやりたいことをやれる場を提供し続けたい。それがSHIROの、社会との関わり方です。
みんなのすながわプロジェクト bySHIRO https://shiro-sunagawa.jp