GPSが機能しなくとも位置を把握できる? 量子慣性センサーが研究中

  • 文:青葉やまと
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「量子慣性センサー」の研究を進める米サンディア国立研究所

<GPS信号の受信不良や、信号のジャミングにも強いナビゲーション装置。ボックスに閉じ込めた量子の動きを観測することで、車や航空機の移動量を計測する>

スマホでの経路検索から兵器の誘導まで、GPSはさまざまなシーンで使われるようになった。

しかし、まだまだ万能とは限らない。周囲の環境によっては信号が受信しにくかったり、意図的な電波妨害を受けたりするおそれがあるためだ。

そこで、GPSが機能しなくなった場合のバックアップ手段として、GPS信号に頼らず正確な位置追跡が可能な「量子慣性センサー(quantum inertial sensor)」と呼ばれる技術が注目されている。箱に閉じ込めた量子の動きを観測することで、箱自体が移動した方向がわかるという原理だ。

まだ研究段階の技術ではあるものの、将来的に実用化される可能性は高い。たとえば車を運転したり飛行機を操縦したりする際、GPS信号が失われても現在地と移動の軌跡を把握し続け、安全に移動を続けることが可能になるかもしれない。

科学ニュースメディアのサイテック・デイリーは、小型化に成功すれば「革命的な車載ナビゲーション支援装置となる可能性がある」と報じている。

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アボカドサイズの中核装置

ジオ・ウィークスは、サイテック・デイリーは米エネルギー省が管轄するサンディア国立研究所での研究を取り上げている。中核となるのは「アボカドサイズの真空容器」で、そこから真空ポンプやルビジウム原子の供給装置などにつながるパイプが伸びている。真空容器に量子を封入し、その動きをレーザーで観測するという。

量子慣性センサーの原理としては、慣性を利用して移動量を把握する。慣性とは、ものに力を加えない限り、その物体が現状の運動状態を保とうとする性質のことだ。静止している物体は静止し続け、運動中の物体は空気抵抗を受けたり人の手で停止させたりしない限り、その運動を続ける。

そこで量子慣性センサーでは、箱に閉じ込めた量子の運動状態を観測することで、箱自体の動きを逆算するしくみをとっている。量子を真空の箱に入れ、レーザー光線を当てて継続的に観測し続けることで、箱が移動した方向や速度を正確に把握することができる。出発地点が判明していれば、移動内容を加算することで現在地がわかるというわけだ。

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GPS受信不可時の飛行をより正確に

量子慣性センサーが実用化されれば、航空業界などでの活躍が見込まれる。現状でも、航空機に搭載されている既存のオンボード・ナビゲーション・システムにより、GPSなしでの位置の把握は可能だ。機体の傾きや加速度を測定し、移動量を算出することができる。

だが、計測上の小さな誤差は避けることができない。長距離の飛行をオンボード・ナビゲーションに頼ると誤差が重なり、大きなズレが生じてしまう。

そこで量子慣性センサーの出番となる。基本的には既存のオンボード・ナビゲーションと同じく移動量によって現在地を算出する原理を採用しているが、測定誤差をずっと小さく抑えることができる。

現状よりも長い距離をGPSなしで飛行しても、かなり正確な飛行ができるようになると期待されている。サイテック・デイリーは量子慣性センサーが、今日航空機やミサイルの誘導に使われているものよりも「1000倍も正確に動きを測定可能」だとしている。

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サイズや耐衝撃性が課題

だが、課題もある。研究チームのメンバーであるリー・ジョンミン上級研究員はサイテック・デイリーに対し、「ラボでは非常に高い精度が確認されていますが、実用化への現実的な課題としてサイズを小型化する必要があり、重さや消費電力も抑える必要があります。動的環境でのさまざまな問題を克服することも必要です」と説明している。

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米サンディア国立研究所のリー・ジョンミン上級研究員 Photo:Bret Latter

そのためジョンミン氏のチームでは、通常複数の装置が用いられる構成要素を共通化するなどにより、装置の小型化を図っている。これまでに大きな成果として、装置の主要部分を靴箱ほどのサイズに小型化することに成功した。この成果を示した論文が9月、ネイチャー・コミュニケーションズに掲載されている。チームは今後、さらなる小型化を目指す方針だ。

GPSが完全に搭載不要となるわけではないが、GPSが機能しない場合の正確なバックアップ手段として、商用化への研究が続く。

青葉やまと

フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。

※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。

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