【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『厄介者のススメ ジョン・ウォーターズの贈る言葉』
アメリカの大学の卒業式での目玉は、大物ゲストスピーカーによるスピーチだ。有名なのはスティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で語った名文句「Stay hungry,Stayfoolish(ハングリーであれ。愚か者であれ)」。反響を呼んだスピーチは本になり、出版され、語り継がれている。
そして今年届いたのがこの本『MAKE TROUBLE』、すなわち『厄介者のススメ』である。伝説的なカルト映画『ピンク・フラミンゴ』や『ヘアスプレー』を監督して「悪趣味の帝王」と呼ばれる鬼才ジョン・ウォーターズは、2015年のロードアイランド・スクール・オブ・デザインの卒業式で、一体なにを語ったのか。
なにしろ自己紹介からふるっている。自分は高校も大学も退学になり、逮捕歴も数回ある。そして、いまなお「ゲロの王子様」「人民の変態」の称号で呼ばれて
いると言ってのける。しかし本当にシビれるのはそこからだ。
「最近では、誰もがアウトサイダーになりたがっています」「でもアウトサイダー気取りなんて、とっくに流行遅れじゃないですか?」。既存の価値観がほころび、たったひとつの正解などないことが自明の理となったいま、「用心はかなぐり捨て、本当にひっくり返してやるんです」。それにはアウトサイダーを気取るのではなく、内側から騒ぎを起こす「インサイダーになれ!」と挑発する。「今日でみなさんの不良少年時代は終わるのかもしれません。だけど、それは大人として不服従のはじまりにならなければなりません」
この世には、単に読むための本とは別に、自分が何者かを忘れないために持っておきたい本がある。本書はそんな金言が満載の1冊だ。本棚に鮮やかなピンクの背表紙を見つけるたび、萎えた心に火が付き、鼓舞してくれるに違いない。
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※この記事はPen 2022年12月号より再編集した記事です。
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